『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

【特集】登校拒否・不登校から見える景色――安心できる居場所がほしい

  • 全教共済
オピニオン

【談話】『「昭和24年事務次官通達『社会科その他、初等および中等教育における宗教の取り扱いについて』」を失効したとする文部科学省の見解と、「学校行事の一環として靖国神社等を訪問してよい」とする閣議決定について』

                    2008年 8月11日 全日本教職員組合 教文局長 山口隆

 いま、各地で「教育課程説明会」あるいは「伝達講習会」などという名称で、教育行政による改訂学習指導要領の説明会が開かれています。ところがある県で、県教委が「昭和24年事務次官通達『社会科その他、初等および中等教育における宗教の取り扱いについて』」は失効しているという渡海文部科学大臣(当時)答弁、これを受け、「学校行事の一環として靖国神社等を訪問してよい」とする閣議決定を引き出した、自民党平沼赳夫議員の質問趣意書と文部科学省の回答を配布するとしている事態が明らかになっています。
 改訂学習指導要領が「靖国」派の意向を受けて、「国を愛する態度」=「愛国心」の押しつけを強めようとしているときに、学習指導要領とは何らかかわりのないこうした文書を配布することは異常ともいってよい事態であることから、この問題について、あらためて見解を明らかにするものです。
 1949年(昭和24年)に出された「社会科その他、初等および中等教育における宗教の取り扱いについて」という文部事務次官通達(以下、通達)は、「学校が主催して、礼拝や宗教的儀式、祭典に参加する目的をもって神社、寺院、教会その他の宗教的施設を訪問してはならない」としたうえで、「国宝や文化財を研究したり、あるいはその他の文化上の目的を持って、学校が主催して神社や寺院、教会その他の宗教的施設を訪問することは、次の条件の下では許される」としたものです。そして、その条件の中に「学校が主催して、靖国神社(以前に護国神社あるいは招魂社であったものを含む)および主として戦没者を祭った神社を訪問してはならない」と述べているものです。
 この通達自体、過去の侵略戦争の反省に立った憲法を踏まえ、「国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない」とする1947年教育基本法の立場に立ち、発出されたと考えられるものであり、その精神は今も生かされなければならないものです。
 しかし、文部科学省がいうように、仮にこの通達が失効しているとしても、そのことをもって「学校行事の一環と靖国神社等を訪問してよい」とする閣議決定そのものが重大な問題を持っています。
 靖国神社は、戦争中は、国民を戦場に動員する役割をになった神社です。そして現在も、日本が起こした侵略戦争を、「自存自衛の戦争」「アジア解放の正義の戦争」と主張する特定の政治目的をもった運動体としての役割を果たしているものです。したがって、靖国神社への訪問は、一般の寺社仏閣への訪問と同列に論じられないものであることは明らかです。
 ところが文部科学省の回答は、「歴史や文化を学ぶことを目的として、児童生徒が神社、教会等の宗教施設を訪問してもよいものと考えている。そのような趣旨で、例えば、ご指摘の靖国神社等についても、同様の目的で訪問してよいものと考えている」「当該施設の歴史、由来等について知識として説明を聴取することは…靖国神社等についても…聴取してもよいものと考える」というものであり、靖国神社を他の寺社仏閣と同列におく立場に立つとともに、過去の侵略戦争を「自存自衛の戦争」「アジア解放のための正義の戦争」とする立場に立つ靖国神社の広報活動を是認するものとなっています。
 こうした不見識は、憲法と歴史の真実に照らしてゆるされるものではありません。また、先に述べた1947年教育基本法の文言は、改悪教育基本法においてもそのまま述べられているものであり、文部科学省の立場は、改悪教育基本法にさえ反するものです。
 学習指導要領の「伝達講習会」等において、教育行政がこうした文書を配布することは、断じて認めることはできません。直ちに配布を中止することを強く求めます。

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