『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

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【談話】『学習指導要領の官報告示について』

                   2008年 3月28日 全日本教職員組合 教文局長 山口 隆

 文部科学省は3月28日、小中学校の改訂学習指導要領(以下、新学習指導要領)を官報告示しました。この新学習指導要領は、マスコミからも、「異例の修正」(3月28日付「朝日新聞」)と報道されているように、2月15日に示された案の段階から、より踏み込んだ改悪を行っており、重大な問題を持つものです。

 第1は、より露骨な改悪教育基本法の具体化として「愛国心」押しつけをはじめ、国家主義的で復古的な内容を盛り込んでいることです。
 新学習指導要領は、小中学校ともに、総則1の2において、案の段階では「伝統と文化を継承し」としていたものを「伝統と文化を尊重し」とし、その後に、案にはなかった「それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し」という文言を挿入しています。これは、明確に「愛国心」押しつけを意味するものであり、子どもたちの内心の自由を蹂躙するものといわなければなりません。
 このことは教科の内容にも反映しています。たとえば小学校1・2年生の国語では、案では「昔話や伝説」とされていたものを「昔話や神話・伝承」として「神話」を新たに盛り込みました。また、音楽の「指導計画の内容と取扱い」では「君が代」について、案では「いずれの学年においても指導すること」としていたものを「歌えるよう指導すること」とし、無理やり歌わせようとしています。
 
 第2は、時の政府の政策に教育を従属させようとするものです。
 中学校社会科では、案では、「我が国の安全と防衛の問題について考えさせる」としていたものを「我が国の安全と防衛及び国際貢献について考えさせる」としています。この文脈での「国際貢献」という言葉は、自衛隊の海外活動を意味するものであり、きわめて政治的であり、重大です。
 しかも、新学習指導要領は、総則1の1で「これらに掲げる目標を達成するよう教育を行う」という文言を挿入し、学校に対し、目標の達成を義務づけています。このことは、子どもたちに無理やり「愛国心」を持て「君が代」を歌え、自衛隊の海外派兵について考えよ、という指導とその結果の点検を意味し、憲法と教育の条理にそむく、きわめて反教育的なものといわなければなりません。
 
 第3は、子どもたちへのいっそうの学習負担を明記したことです。
 新学習指導要領は、総則3の1で、案の段階では「学期の内外を問わず…授業を特定の期間に行うことができる」としていたものを、「夏季、冬季、学年末等の休業日の期間」と明記しました。つまり、夏休み、冬休み、春休みを短縮して授業を行えといっているのです。
 案の段階でも私たちは、小学校1年生に毎日5時間授業など、子どもたちへの学習負担を強いるもの、と批判してきましたが、新学習指導要領は、そのことを反省するどころか、長期休業まで短縮して、子どもたちを勉強に追いたてるという大きな学習負担を強いるものです。
 
 以上の重大な問題とともに、手続き的にも大問題を持っています。
 文部科学省は、2月15日の案の提示の段階から、1カ月間のパブリックコメントを行ってきました。ところが、そのパブリックコメントの結果については、まったく明らかにしないまま、上記のような重大な変更を行ったのです。新聞報道では、寄せられたパブリックコメントは、5679件とされており、教職員をはじめ多くの国民の関心が寄せられたことが示されています。しかし、本日時点でも、まだその結果は公表されておらず、案からの変更は、まったくの密室で行われたとしか考えられません。
 こうした改悪修正の背景には、政治的な圧力があったとしか考えられません。改訂案には「日本会議国会議員懇談会の所属議員からの強い不満が上がっていた。」(3月28日付「朝日新聞」)と報道されており、結局、新学習指導要領は、文部科学省がこうした「靖国」派の圧力に屈した結果といわなければなりません。教育を政治の力でゆがめるなど、断じてあってはなりません。
 政治介入に屈してつくられた学習指導要領など、断じて認めることはできません。私たちは、文部科学省に対し、新学習指導要領を白紙撤回することを強く求めるものです。

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