『クレスコ』

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クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

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【声明】『全国一斉学力テストの中止をあらためて強く求めます』

2007年 2月20日 全日本教職員組合 中央執行委員会

 文部科学省は、2007年4月24日に、全国のすべての小学6年生、中学3年生を対象に、「全国学力・学習状況調査」(以下、全国一斉学力テスト)を実施しようとしています。私たちは、いっそう子どもたちを競争させ、子どもと学校の序列化をすすめる全国一斉学力テストにはもとより反対であり、これまでも、春闘期の文部科学省交渉等において中止を求めて厳しく文部科学省を追及してきました。

 この全国一斉学力テストについての実施マニュアル(以下マニュアル)が1月末に各教育委員会や学校に送付されていますが、これをとおして、全国一斉学力テストの実施方法に人権侵害につながる新たな重大な問題点があることが明らかになりました。マニュアルでは、教科に関する調査の解答用紙および児童生徒に対する質問紙調査の回答用紙に、学校名、男女、組、出席番号、名前を書かせることになっています。そしてこの解答用紙および回答用紙は、そのまま梱包して送付することになっており、その送付先は、小学校は、文部科学省が委託している(株)ベネッセコーポレーションであり、中学校はこれも文部科学省が委託している(株)NTTデータとなっています。また、NTTデータは(株)教育測定研究所を「連携機関」としており、この(株)教育測定研究会は、旺文社グループの一員です。
 
 全国一斉学力テストに先立って行われた「予備調査」では、児童・生徒質問紙調査で「朝食を毎日食べているか」「1日あたりどのくらいの時間テレビを見ているか」」「家には本は何冊くらいあるか」「家にコンピュータはあるか」「家の人は学校の行事によく来るか」というプライバシーにかかわる質問に加え、「1週間に何日塾に通っているか」「学習塾では学校より難しい勉強をやっているか」「おけいこ事に通ったことがあるか」など受験産業にとってほしくてたまらない情報にかかわる質問もなされています。
 文部科学省が委託した民間企業は、問題用紙、教科の解答用紙、児童生徒質問紙の回答用紙の送付、回収、採点、分析のすべてをおこなうことになっているばかりか、教育委員会や学校からの問い合わせに対する対応まで行うことになっており、まさに民間企業丸投げです。
 こういうやり方をすれば、子どもたちの教科の点数、また多くのプライバシー情報をふくむと考えられる「質問紙」への回答が、すべて特定の民間企業の手に握られることになり、この企業が文部科学省の委託であるところから、全国すべての小学6年生、中学3年生の個人情報が文部科学省の手に握られることになります。
 
 これは、個人情報保護に照らして大問題です。「行政機関の保有する個人情報保護に関する法律」(以下、個人情報保護法)では、第3条2項に、「行政機関は…特定された利用の目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を所有してはならない」とされています。文部科学省が全国一斉学力テストをおこなう目的は「(1)全国的な義務教育の機会均等と水準向上のため、児童生徒の学力学習状況を把握・分析することにより、教育の結果を検証し、改善を図る。(2)各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図る」とされています。この目的自体、競争と序列化につながる不当なものです。しかし、文部科学省がいう目的に照らしても、子どもたちの固有名詞による集約は、まったく必要ではありません。今回の実施方法は、個人情報保護法違反である疑いがきわめて強いものです。
 また、個人情報保護法では、第4条で「行政機関は、本人から直接書面に記録された当該本人の個人情報を取得するときは…あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない」としています。しかし、マニュアルには、保護者や子どもたちに明示する手続きは記載されておらず、この面からも違法性を疑わざるを得ません。先行して行われている東京でも固有名詞を書くことは求めておらず、愛知県では、高校入試の解答用紙にさえ固有名詞は記入せず、受験番号のみとするという大変慎重な対応がなされています。
 文部科学省という行政機関が、このような違法性のおそれのきわめて強い実施方法で全国一斉学力テストを行うなど、絶対にあってはならないことであり、しかも、それを民間企業が行うことなど、言語道断です。
 
 しかも、ベネッセも旺文社も、いわば受験産業です。文部科学省は、「全国一斉学力テスト」の実施を民間企業に丸投げすることをとおして、受験産業に、全国約240万人の小学6年生と中学3年生の、教科の点数と家庭状況を含むプライバシー情報をすべて売り渡すという重大問題をおかすということになります。
 さらにこれは、国民の税金を使って行われることです。文部科学省は、2006年度予算で、全国一斉学力テストの準備予算として29億円を投入し、現在国会で審議中の2007年度予算で、その実施にかかわる予算として66億円を計上しており、2年間であわせて100億円近い予算を使う予定です。国民の税金を使って、民間企業に子どもの個人情報を売り渡すなど、断じて許されません。
 企業の目的は利潤追求にあります。すでに先行的に民間企業丸投げで実施されている東京のある区では、教材業者から「おたくのお子さんの都のなかでの順位を教えましょうか」という売込みをうけた親がいることも、報道されています。特定の民間企業に集積される膨大な個人情報が漏洩しない保障はどこにもありません。しかも、いま企業のモラルハザードが社会的に問われる状況になっており、さらに事態は重大です。民間企業に丸投げするというやり方が引き起こす大問題といわなければなりません。
 
 実はここに全国一斉学力テストの本質があらわれています。
 私たちは、全国一斉学力テストは、子どもたちに対するいっそうの競争と管理を強め、子どもたちをテストの点数によって序列化し、教育の格差づくりをすすめるものであると、厳しく批判してきました。
 子どもたちを序列化するには、国語や算数・数学の点数を固有名詞で把握しなければできません。固有名詞でそれを把握することによって、全国約240万人の子どもたちをすべて点数で序列化することが可能となり、必要に応じて、都道府県ごとに、また市町村ごとに、子どもや学校を序列化することも可能となります。この実施方法そのものが、全国一斉学力テストが学力向上のためではなく、子どもたちを序列化し、管理するという本質の露呈にほかなりません。
 また、この全国一斉学力テストは、改悪教育基本法の最初の具体化です。改悪教育基本法について私たちは、これを「戦争する国」の人づくりであるとして、これも厳しく批判してきました。子どもたちの家庭状況も含んだ個人情報を民間企業と行政機関がすべて把握するという、今回の大問題は、戦争準備の施策にほかなりません。国家が国民を支配して戦場に送り込むためには、国民総背番号制ともいわれるように、国家が国民一人ひとりの情報を把握する必要が出てきます。今回のやり方を数年間続けて行えば、行政権力が未来の主権者のほとんどの個人情報を把握することができるものであり、大問題です。事実アメリカでは、「落ちこぼれゼロ法案により貧困地区の高校生のリストを手に入れた軍のリクルーターたちが、前線へ送られないことと引きかえに、必死になって貧しい子どもたちを軍に勧誘していた」(クレスコ1月号 堤未果)とされていることからも、現実的危険がある問題です。
 
 さらに、これだけの膨大なデータの集約や分析は、何らかの利益の見返りなしにできないものであり、民間企業に丸投げする必然性もここにあります。予算の内訳はつまびらかではありませんが、おそらくは、数十億円の税金が民間企業のために使われるということは、推測に難くありません。また、このデータの不正な使用がおこなわれれば、受験産業にとって、これほど大きな儲けにつながる個人情報はありません。民間企業丸投げというやり方は、政府・財界が一体となってすすめる戦争国家づくりと、新自由主義的教育政策推進にとって必然のものといわなければなりません。
 
 最後に、私たちの学力についての考え方と、学力調査についての見解をあらためて表明しておきます。
 私たちは、子どもが基礎的な学力をはじめ、自然や社会に対する知識や科学的な認識を身につけることは、父母・国民の基本的な教育要求であり、学校教育が担っている基本任務であると考えています。そのためには、子どもの実態をもっともよく知っているその学校の教職員が、子どもの学力実態をしっかり把握してよく話し合い、子どもたちが学習内容をよく理解できるように、教える中身や教材を工夫したり、教え方を工夫したりして教育活動にあたるなど、具体的なとりくみが必要であり、現に多くの学校で、そうした努力が学級や学年ですすめられています。
 同時に、学力実態を客観的に明らかにする調査も必要であると考えています。そうした調査をおこなう場合、私たちは、以下の6つの原則にもとづいて行われなければならないと考えます。
 
 第1は、調査は行政権力から独立した第3者機関によって行われることです。その際、調査を民間の業者に委託することは、国民的に解決すべき学力問題を、企業の利潤追求の対象とすることにつながるものであり、行ってはなりません。
 第2は、調査は抽出で行うことです。全国一斉学力テストのように悉皆で行うことは、学校のランク付けに利用される危険が大きくなるからです。
 第3は、学習指導要領そのものも調査対象とすることです。
 第4は、子どもの学力実態と1学級あたりの子どもの人数や学校規模などの教育条件との関係も調査の対象とすることです。
 第5は、調査にあたっては、調査対象となる子どもと保護者に十分説明し、了解を得て行うことです。
 第6は、学力問題について、国民的討論がすすめられるよう、調査の内容について、またその結果について国民的に明らかにしてすすめることです。
 私たちは、以上のことを2003年から明らかにしており、父母・国民のみなさんに検討を呼びかけています。
 現に、「学力世界一」といわれているフィンランドでも学力実態調査は行われていますが、それは、5%の学校を抽出しての調査であり、調査の結果、問題があると見られる学校には、教員をさらに手厚く配置するなど、教育条件を整えています。
 政府・文部科学省には、こうした方向こそ求められるのではないでしょうか。全国一斉学力テストは、私たちが提案している学力調査の見解に照らしても、二重三重に問題があると考えます。
 
 以上のことから、私たちは、文部科学省に対し、全国一斉学力テストの中止をあらためて強く求めるものです。また、実施の権限をもっている市町村教育委員会に対し、上記の大問題について今一度真剣な吟味、検討を行い、中止も含めた自主的判断を強く求めるものです。
 私たちは、父母・国民のみなさんとの共同をさらに大きく広げ、中止を目指したとりくみをすすめることを明らかにするものです。

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