『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年11月号 10月20日発行〉

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【見解】『教職員の異常で違法な超過勤務実態の是正をめざして――文科省の教員勤務実態調査の結果を踏まえて――』

2006年12月 4日 全日本教職員組合中央執行委員会

1 文部科学省は、行政改革推進法の規定:「人材確保法の廃止を含めた見直しその他公立学校の教職員の給与の在り方に関する検討を行い、平成18年度中に結論を得て、平成20年4月を目途に所要な措置を講ずる」に基づき、中央教育審議会初等中等教育分科会に「教職員の在り方に関するワーキンググループ」を設置しました。
 また、政府は「骨太の方針06」(7月7日)で、義務教育費国庫負担金の見直しとして教職員定数を「今後5年間で1万人程度の純減」を確保することや「人材確保法に基づく優遇措置を縮減(注1)するとともに、メリハリをつけた教員給与体系を検討」することなどを決めました。
 
(注1)財務省と文科省は、教員給与の「優遇分」2.76%削減、残る「優遇分」1万8465円でメリハリのある給与体系の構築をめざす、で合意(6月22日)。
 
2 このような中で文科省は、40年ぶりに教員勤務実態調査を7月から実施、11月24日のワーキンググループの会議に、7、8月分の結果が報告されました。
 その結果によると、7月の平日平均勤務時間数が1日10時間58分、持帰り仕事35分、夏休み期間中である8月の平日平均勤務時間数が1日8時間17分、持帰り仕事15分でした。休日における勤務状況は、7月は1時間12分、持帰り仕事2時間01分、8月は27分、持帰り仕事41分でした。
 7月が学期末という時期にあったとはいえ、平均値を1カ月に換算(平均給与ベース)すると約80時間(約52時間の超過勤務と約28時間の持帰り仕事)という過労死ラインに相当する時間外勤務を全国の教職員が行っており、学校職場ではきわめて異常で違法な勤務実態が常態化していることを浮き彫りにしました。
 発表された時間数にもとづいて割増の時間外手当に換算すると、1カ月平均で21万6078円(小学校19万9008円、中学校23万2932円)になります。そして、1年間の教職員のタダ働きは、人件費で推計すると、持帰り時間を除いても約154万円(小学校117万円、中学校188万円)になります。持帰り時間を算入すると約238万円(小学校219万円、中学校256万円)になります。現在、全国で働く教職員は約92万人ですから、持帰り時間を除いてサービス残業額は約1兆2千億円にもなるのです。
 
3 この深刻な長時間過密労働を解消する実効ある対策に着手することが、今、文部科学省に求められています。ところが、「中教審は今後、一般の公務員より高めに設定されている教員の給与水準が妥当かどうかの検討を進める」「個人別に見ると、平均残業時間が7時間42分(中学校)に及ぶ教員がいる一方で、ゼロの教員が2.3%いるなど、個人差が著しいこともわかった。この日の作業部会では『教職調整額を残業時間に応じて変えるべきだ』などの意見が出た」(「読売新聞」11月25日付)と報道されていますが、とんでもないことと言わなければなりません。法定の勤務時間内に仕事が終了することは本来のあり方で、「残業ゼロ教員」を非難することは当たりません。
 
 第1に、超過勤務手当制度を適用除外とした「給与特別措置法」(以下、「給特法」)の基本的態度は「原則として時間外勤務を命じないものとする」(政令)であり、「限定4項目」と「臨時又は緊急」の2重の歯止めを設けるとともに、「教育職員の健康と福祉を害することとならないよう実情について十分な配慮がされなければならない」(第6条2項)と規定されています。「教職員の在り方ワーキンググループ」には設置目的の制約があるとしても、少なくとも、「極力、教育職員の超過勤務を少なくする方向で・・立案」(注2)された立法趣旨に基づき、「給特法」が適正に機能しているか、その検証をする必要があるのではないでしょうか。立法当時には想定されなかった膨大なサービス残業があることを把握しながら、「給特法」を前提に、給与の削減を目的とした「メリハリある体系」の枠内で答申することは断じて許されません。
 
 第2に、そもそも教職調整額は、「時間計測になじまない点がある」として、「教育職員の職務と勤務態様の特殊性からみて、すすんで、正規の勤務時間の内外を問わず包括的に評価して給与措置を講じようとするものである。従って、この調整額の考え方の基礎においては、超過勤務の実働時間とは直接には対応しないものであり、一律支給が適当であると考えられたものである」(注3)として導入されました。このような教職調整額に、個々の残業時間に応じて差を設けることは、根本的な自己矛盾を抱えることになります。
 
 第3に、残業時間のバラツキが問題にされていますが、この是正こそが求められているのではないでしょうか。導入時に文科省は「教員の時間外勤務について、個々の教員により余り著しい差異があることは本来望ましいことではなく、職務分担および勤務時間の割り振りの適正化について、今後とも努力することが望まれるものである」(注4)と解説していました。バラツキを理由に、教職調整額に格差(例えば、2%、4%、6%)を設けることは言語道断と言えます。
 
(注2)『教育職員の給与特別措置法解説』文部省初等中等教育局内教員給与研究会編著95ページ
(注3)同上114ページ
(注4)同上114ページ
 
4 「給特法」においては、教員の「職務と勤務の特殊性」に基づき労基法37条に基づく時間外手当の支給は適用除外となっており、このことを不服であるとして京都市などで訴訟も起こされています。この京都市教組の訴訟に係わる「意見書」の中で、萬井隆令龍谷大学法科大学院教授は労働法研究者として、「給特法上は、限定4項目以外には時間外労働は行われないという建前に沿う限りにおいて、労基法37条の適用除外を定める(条項)が有効とされる…給特法の建前に反する場合は、労働時間制の原則に立ち戻り、…現実に超過勤務をさせた場合には、労基法37条の適用がある」との見解を表明しています。
 判例にも、「時間外勤務等が命ぜられるに至った経緯、従事した職務の内容、勤務の実情等に照らして、それが当該教職員の自由意思をきわめて強く拘束するような形態でなされ、しかもそのような勤務が常態化しているなど、…(特別な場合には)…その(時間外手当)支払いを拒むことは信義公平の原則に照らし許されない」(名古屋地方裁判所昭63・1・29)があり、会計検査院の専門調査官も「限定4項目に該当しない時間外手当等勤務が常態化しているとしたら、その事態は違法な状態であると考えざるをえない」(「月刊高校教育」05年4月号)と指摘しています。
 
 したがって、文科省の調査結果が如実に示しているように、教員の長時間過密労働はますます深刻化し、常態化しており、違法状態は速やかに是正されるべきと考えます。私たちは、「給特法」を改正し、測定可能な時間外勤務には、労基法37条に基づく時間外手当を支給すべきと要求してきました。ワーキンググループにおいて、教職調整額に格差を持ち込む検討ができるのは、残業時間が「測定可能」であることを教えています。「教員の残業時間が測定できない」との神話が崩れた以上、教員にも時間外手当が支給できるように、法改正の検討と予算要求に着手すべきと考えます。ただ、時間外手当制度では、管理職の事前承認と事後確認が要件となっており、教員の自主的自律的教育活動が妨げられないか、などの危惧の声が職場にあり、学校にふさわしい超過勤務時間数の把握方法などを工夫すべきと考えます。
 ところが厚生労働省は、一定のホワイトカラー労働者については労働時間規制の適用を除外する「自由度の高い働き方にふさわしい制度」の導入を検討しています。これは、教員の時間外手当要求の法的根拠を剥奪するだけでなく、すべての労働者を際限なく働かせることを合法化するものです。全教は、この労働法制の改悪に断固として反対し、全労連に結集し、とりくみを強化するものです。
 
5 平均で1カ月約80時間、休憩時間がとれていないことを考えると90時間を超えると思われる教職員の超勤実態は、ただちに解消に向けた具体策が図られなければなりません。子どもと向き合う時間を十分に確保するため、上からの「教育改革」に伴う報告事務などを大胆にメスを入れるとともに、仕事の精選、業務改善、部活動の見直しなど時間外の縮減を図ることが大切ですが、政府がすすめている構造改革による公務員総人件費削減という枠内では、実効ある解決にならないことは明らかです。
 勤務日の残業時間分に相当する時間外手当総額だけでも、1人あたりの平均必要経費(900万円)で割り返すと、約10万人の教職員が必要になります。文科省と各都道府県教委は、超勤解消のための定数増にただちにとりくむことが求められているのです。もちろん10万人という数字は大きなものですが、30人学級・持ち時間数軽減を含む新教職員定数改善計画を策定し、少なくとも自然減に見合う定数減をやめ、現行の教職員定数を維持するなら年次的に改善・解消できるものです。何よりも「骨太の方針2006」で政府が打ち出した「教職員の1万人純減」を中止することを強く要求するものです。
 全教は、教職員定数増と時間外勤務への労基法37条適用などの運動をさらに強化するとともに、教職員のいのちと健康を守り、「いじめ・自殺」や学力問題などの教育困難解決に向けて全力でとりくむものです。
 

以上
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