『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

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ニュース

『第9回CEART(2006年10月23日~11月3日)勧告』 ~全日本教職員組合(全教)による申し立て~

■以前に受理されたアリゲーションのその後の進展状況概説

150. 2003年のこの前の共同委員会報告の後、同報告の付属文書IIで言及されていた事項に関して、日本政府と全日本教職員組合(全教)から追加文書が送付されてきた。


151.第7回共同委員会の報告の中で言及されている改訂手続きに沿って、追加文書は共同委員会のアリゲーション作業部会により検討され、共同委員会は中間報告を採択した。この報告の中で、共同委員会は、全教により不服申し立てがなされている諸事項は、1966年勧告に定められた水準を満たしていず、教員評価と評定制度の実施に関する重要な問題の大部分が未解決であるとの結論に達した。共同委員会は、両当事者に対して、相互に受け入れられる方法で、未解決の諸問題の解決につとめるために、全国的なレベルと地方レベルの両方で、誠実な対話を行うよう促した。委員会は、日本政府と全教に対し、これらの諸問題の今後の展開についての情報を共同委員会に常に提供するよう要請した。
 
152.中間報告は、ILO理事会とユネスコ執行委員会にしかるべき時に提出された。ILO理事会は、2005年11月に報告に留意し、日本政府と全教がその後の進展についての情報を共同委員会に常に提供するように要請して、報告を両当事者に配布することを承認した。2006年9月、中間報告は、ユネスコ執行委員会により審議され、同執行委員会は、報告に留意し、政府と全教が、共同委員会により提案されているように、対話を行うよう勧告した。
 
153.2006年4月、全教は、依然として1966年勧告の水準が満たされていないことについてのその後の進展状況に関する詳細な情報を送付してきた。
 
154.大阪府教育委員会管轄下の地区での教員評価制度の導入に関して、なかまユニオンからの補足的な報告も受理された。この報告は、評価制度の導入に関して、1966年勧告の諸条項が遵守されていないと主張するものであった。それは特に、導入前に組合との適切な対話と評価制度における透明性が欠如していたこと、そして行われた個別評価に対する異議申し立てに関する制度が適切なものでないことに、不服を申し立てるものであった。
 
155.上記の全教の主張に対する詳細な返答が、第9回委員会の直前に日本政府から受理された。なかまユニオンの主張に関して、日本政府は、この件は、今回の共同委員会で、全教のアリゲーションにより提起されている懸案の諸問題の審議が終わるまで、繰り延べることを要請した。そのため、共同委員会は、なかまユニオンが主張している問題に関して、その会合で確固として結論をだすことはできなかった。
 
156.共同委員会は、この追加資料を慎重に検討した。追加のアリゲーションに関する内容の要約と、ILOおよびユネスコのしかるべき機関と、日本政府および全教への検討結果と勧告は、この報告の付属資料IIに含まれている。

■以前に受理されたアリゲーションに関するその後の進展 

1.E I とエチオピア教員協会のアリゲーション(略)

2.全日本教職員組合(全教)となかまユニオンから受理されたアリゲーション 


経緯 

1.最初は1998年2月5日付の連絡から始まった全教のアリゲーションの詳細は、第8回共同委員会報告と2005年9月の中間報告に記載されている。この件に関する経緯は、中間報告の第1項から第12項で扱われている。

2.アリゲーションは、基本的に以下の2つの中心問題に焦点をあてたものであった。
(a)指導力不足とされる教員の認定のために制定された制度実施の詳細と方法
(b)特別昇給により、また直接的な財政的恩典により、仕事の上で優れた業績を示した教員を報奨するための制度

3.共同委員会は、2003年報告において、それらの制度が1966年勧告で期待されているような事前協議なしに策定されたことと、以下の事項に関する見解を表明した。
(a)教員の適性の問題に関して、提起されている新制度の基本的な要素は、さまざまな点において、勧告の特定の条項を遵守したものではなかった。
(b)評価制度に関して、それは特に、評価の詳細を知り、不服申し立てをする権利が認められていない主観的な評定と、その経過に公開性や透明性が欠如していることを含めて、適切な事前協議がなかったことを示しており、明確に勧告の第64項および124項に沿って策定されたものではなかった。

4.同委員会の勧告が行われた後、2004年3月に、文科省と全教の間で全国的レベルの一定の限られた対話が行われた。しかしながら、それは異論がでている制度に何ら実質的な変更をもたらさなかったようであった。

5.共同委員会の中間報告から明らかなように、いくつか県において若干の小さな進捗がみられたが、同制度の異議申し立てを受けている問題点は、政府が、勧告の適用を受けない地方の管理運営事項であるとの主張を続けているので、概して未解決のままであった。

6.共同委員会は、中間報告で以下のような結論を出した。

16.さらに、共同委員会は、日本における状況についての委員会のこの前の所見は、法的権利についての細かい問題に対するものではなく、教員に関して認められている国際基準を遵守することが望ましいことと、教育制度の発展には効果的で適切な対話が重要であることに注意を促したものであることを、再度強調するものである。

17.共同委員会は、最新の政府回答が、勤務評定制度の策定と実施に関する実質的な問題のほとんどが未解決のまま残されている、という全教の主張にこたえたものになっていないことに留意する。

18.共同委員会は、勧告は、両当事者が協同の精神で協議するというプロセスに向って歩み寄るという見地から考察されていることを強調するものである。日本のような地方分権制度のもとでは、しかるべき行政手続や方法が実際に策定され、実施されているすべてのレベルで、そのようなプロセスが行われることが必要である。すべての教員に対する適切な手続きや方法が一貫した方法で採用され、適用される手段についてのガイダンスの提供に文科省が関与することが、このプロセスを容易ならしめることは間違いない。上述の第10項で指摘されているように、県レベルで問題を解決するのに若干の小さな進捗がみられてはいるが、まだまだ多くのことがそのままにされているのは明白である。共同委員会は、勧告が両当事者間の根本問題を管理当局から取り除くためにつくられたものではないが、それでも、勧告(特に第49項と第124項)の諸条項に沿って関連する行政上のプロセスにおいて、また評価結果を処理するための方法をも策定することに、教員団体が関与させられるべきことを意図したものであると考える。現在まで、そのようなことは、ごく限られた程度しか行われていないように見える。 

その後の進展 

7.進展状況について共同委員会に知らせるようにとの要請に応えて、全教は、2006年4月27日付で、報告を送付してきた。

8.この報告のキーポイントは、以下のように要約される。
(a)2003年と2005年の共同委員会により提起された諸事項を追究するために、全教は、交渉の機会を持つように文科省に要請した。
(b)全教は、日本における公務員制度は、労使交渉の権利を認めていないために、政府は「国際基準の遵守に消極的な態度を」とっている、と主張している。
(c)そして政府が、「成果主義に基づく人事評価・給与制度の導入や、勤勉手当への実績反映の拡大、『成績繍優秀者に対する特別昇給』を含めて、公務部門における『行政改革』政策を推進してきたと同時に、政府は、この内容を、教職員を含む地方公務員にも適用するよう指導してきた」との主張が記載されている。
(d)全教は、関連する教職員団体との事前協議なしに策定され、導入されたこの新制度が、今では県レベルでも広範に適用されるようになっていると述べている。その実施において、共同委員会の2つの報告で指摘された諸事項の大半に配慮が払われず、全教との交渉もごく限られたものにとどまっていることが述べられている。共同委員会により以前に認定された諸問題も、ほとんどの場合適切に処理されていないとも述べられている。全教からの最新の報告には、懸案の諸問題の実例と、「(勧告は)国内法を拘束するものではない」という立場にたって、1966年勧告に述べられている理念を認めることに相当消極的な態度がとられてきたことが記載されている。
(e)全教は、地方教育委員会が自主性を持ったものであると政府は主張しているが、基本的には文科省の方針に拘束されていると主張している。そのため、その文脈において、都道府県教育委員会の大半が、国内法が1966年勧告の理念より優先され、関連する諸問題は「管理・運営事項であり、協議ないしは交渉の対象ではない」という公然と表明されている政府見解を反映したスタンスをとっている。全教は、政府が地方教育委員会に対して、重要な国際基準の遵守するよう故意に指示を出していない、と主張している。
(f)全教は、全般的に、共同委員会により言われてきたことは傾聴されないままであると述べ、異論の出ている新制度の実施が、教職員に明らかに悪影響を与えてきたし、今も与えている状況を、さまざまな統計や一連の実例をあげて示している。

9.要約すると、全教は、共同委員会が日本政府に対して、以下のことを促すよう要請した。
(1)CEART勧告に基づき、1966年および1997年勧告に十分な配慮を払った教育行政をすすめること;
(2)「指導力不足教員」制度の全国的な実態調査を分析し、一貫した方法で適切な手続きと方法がとられ、運用されるよう、都道府県教育委員会・政令市教育委員会に示すこと;
(3)新たな教員評価制度の導入と実施に関して、1966年勧告とCEART報告が求めている水準に合致した客観性、透明性、公正さを確保するガイダンスを示すこと;
(4)教員団体との事前協議なしに、評価結果と賃金・処遇とを連動させる決定が行われないように勧告すること;
(5)2003年のCEART報告と、2005年のCEART中間報告の内容を、文科省が各地方教育委員会に伝達し、それらの機関が上記報告を尊重するよう奨励するとともに、評価制度の見直し・改善に向けて、教職員団体との建設的な交渉・協議を持つようにさせること。

10.全教は、懸案の諸問題の解決に向けて、共同委員会事務局の上級スタッフを含む調査団が、日本に派遣されるよう要請した。

11.CEARTは、定められている手続きに沿って、最新の全教からの報告に対する返答をもとめて、これを日本政府に照会した。

12.それ以前に、大阪府のなかまユニオンから受理された文書に関する照会が行われた。すでに述べられたように、その不服申し立ては、全教のアリゲーションで述べられている諸事項と大部分が類似したものであった。政府は、2006年10月30日付の手紙で、なかまユニオンの主張は、日本における教員の人事管理制度の包括的な方向という大きな問題の決定がなされた後にとりあげられるべきものと考える、と返答してきた。政府はまた、なかまユニオンのケースは、日本の国内法で、地方教育当局の管理・運営事項は行政と教員グループ間の交渉の対象とならないので、なかまユニオンの共同委員会への不服申立ての権利に疑義を唱えている。共同委員会は、なかまユニオンの申立ては、全教により提起されている諸問題についてのより広範な文脈の中でとりあげられるべきだとする日本政府の第1の主張には同意する。同時に、共同委員会は、地方的な性格をもつ諸ケース(そして拡大解釈すると、地方の教職員団体からのアリゲーションの受理の可能性)に関する政府の主張には同意できない。この点に関しては、2005年の中間報告(CEART/INT/2005/1、第5項)で、「それらは地方行政の管理運営事項であり、『勧告』の適用対象外であるとする日本政府の主張は認めがたいものである」としたことを指摘した。さらに共同委員会は、「national」という用語は、上記のような団体を国際的な教職員団体と区別するために使われてきたので、それ以前に(CEART/7/2000/10、第57項)加盟国内で正式に結成された労働団体であれば、どのような団体から提出
されたアリゲーションも受け付けてきた。

13.第9回の会合(2006年10月23日)の少し前に、共同委員会は、全教の進展状況報告に関する詳細な見解を日本政府から受理した。

14.政府は、教職員集団の7・3%台しか組織していない全教は、日本の少数派の教職員を代表しているにすぎず、その見解は、教職員の30%を代表しているその他の教職員組合により共有されているものではない、と主張した。

15.文科省は、しかしながら、懸案事項に関して全教との会合を2006年9月15日に持ったと述べ、その後共同委員会の中間報告の内容は、総務省の指導により、すべての都道府県と政令指定都市の教育委員会に伝達された、と主張した。

16.文科省は、人事管理制度を策定・実施するのは、個々の教育委員会の権限であり、文科省が地方の意思決定権限を制限するような行為を行ったかのように示唆されていることは妥当ではないと強調していた。文科省は、指導力不足教員の数は、90万人台の全教職員数と比較して、ごく少ないものであることを統計が示しており、人数が増加しているように見えるのは、制度の新しい手続きの実施が着実に増加されつつあることを示しているにすぎないと主張した。

17.文科省はさらに、指導力不足と認定された教員の問題に対処するために策定されたほとんどすべての運用制度が、指導力不足の対象とされる当該教員が、意見聴取される権利と機会の両方を持つことができるようなプロセス――その詳細に関しては、管轄地区ごとにある程度の相違はみられるものの――を規定していることを示すために策定したスケジュールを提供してきた。

18.文科省は、新しい手続きの実施と病気休暇をとったり、試用期間中に離職する教職員の数が増加していることに、相関関係を示すものはないと主張した。同省は、全教が挙げているいくつかの特殊な実例は、この文脈が勘酌されれば、全教のアリゲーションを裏付けるものではないと述べている。

19.政府は、1966年勧告の基本理念を十分に遵守する意思があることを強調しているが、教員の指導力不足や勤務評定に関して不服申し立てされた事項は、本質的には、地方教育委員会が、提起されているあらたな措置に関して通常は広く協議を行ってはいるものの、関連する組合との対話を行う義務を有するかどうかは、地方の管理事項であるという従来の主張を再度繰り返した。

20.共同委員会は、共同委員会の調査団(ミッション)が日本を訪問し、実情を検証するという提案に関して、文科省が全教と同じ立場をとっているものと理解した。文科省は、その報告の中で、「指導力不足教員の評価や教員評価制度においてとろうとしている一連の措置について、CEARTが、日本の各教育委員会と直接会談を行うことを、文科省は望んでいる」との意見を表明した。同省はまた、そのような会談を行う中で、すべての教職員団体とも、問題となっている事案に関するそれぞれの立場について聴取するための会談を行うよう強く主張した。

勧告 

21.共同委員会は、ILO理事会とユネスコ執行委員会が以下のことを行うよう勧告する。
(a)上述された状況に留意すること;
(b)日本政府が、全教と協議を始め、共同委員会報告について各県当局に通知し、上述されたように積極的な招請を行うという、これまで採ってきた積極的な措置について、共同委員会が、評価していることを日本政府に伝えること;
(c)共同委員会事務局の協力を得て、日本政府と全教によって求められた状況の調査をし、これまで位置づけられている問題の解決のための提案をすべての当事者に行うために、調査団(ミッション)を日本に派遣するという共同委員会の意向に留意すること。


(全教訳)

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