『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

【特集】登校拒否・不登校から見える景色――安心できる居場所がほしい

  • 全教共済
教職員権利憲章

前文

かぎりない可能性を秘めて、子どもや青年は学校に通ってくる。

すべての教職員はこの子らと、心ゆたかに接しその人間的成長に力をつくしたいと願い、父母・国民はその実現を学校に期待している。

学校はゆとりと自由が保障され、一人ひとりの子どもを人間として大切にし、教え学ぶ喜びにみちた場でなければならない。

しかし、いま、憲法・教育基本法の諸原則を根底からくつがえそうとする教育政策のもとで、教育への権力的な支配・統制が強められている。過大な教育内容のおしつけと早期からのふるいわけがもちこまれ、子どもたちのすこやかな成長がはばまれている。

教職員は、子どものために必要と思うことができず、不本意なことが強要され、しばしば考えるゆとりさえない長時間で過密な勤務をしいられている。それは教育の場に欠かせない人間の尊厳をいちじるしくそこなっている。人間らしく生き、はたらく権利と、教育の自主性の確立は教職員の切実な願いである。

私たちは、日本の教職員がかつて軍国主義の教育をになわされ、教え子を戦場に送り、侵略戦争に加担した痛恨の歴史を忘れることはできない。その教育は、教職員の完全な無権利と、教育への苛酷な統制と自主的な活動への弾圧のうえになりたっていた。教育の名で子どもの生きる権利さえうばったこの道を、二度とあゆんではならない。だからこそ私たちは、戦後50年、憲法・教育基本法の精神を心にきざみ、いかなる不当な支配にも屈せず、子どもたちが真実を学び、人間として成長し、平和で民主的な社会の形成者としてとして育つよう力をつくしてきた。その責務をはたすためにこそ、教職員に人間として労働者としての当然の権利とともに、直接国民に責任を負う教育の専門家としての教育上の権利・権限が確立されるべきことをあきらかにしてきた。

人類の歴史は、人間の尊厳を、それを侵すものとのたたかいを通して広げてきた歴史であった。わけても20世紀はその巨大な前進の世紀となった。

自由、民主主義をもとめて侵略とファシズムにたいしてたたかった歴史の軌跡は、憲法・教育基本法をはじめ、国際的には世界人権宣言や国際人権規約などに結実している。その到達点をふまえて、「子どもの権利条約」が国際社会の総意として締結され、わが国もその締約国となった。

こうした歴史の流れに立ったとき、21世紀につらなる教育発展の基本方向は明確である。それは子どもがみずからを人間として生き、成長する権利の主体とし、個人の尊厳をかけがえのない価値として教育の土台にすえることである。

いま世界では、大量の核兵器と軍事ブロックの新たな拡大、戦争と民族紛争、南北問題や環境破壊、暴力、差別、人権侵害など、人間の尊厳にとって危機的な事態が地球的規模で進行している。

これらの諸問題を人類の英知により、国際連帯の立場で解決し、子どもを守り、平和で人間らしい社会をつくるうえで教育がになう役割はますます大きくなっている。

一人ひとりの子どもの権利に根ざす教育の豊かな発展が、教職員の諸権利の確立と結びついていることはいうまでもない。

私たちは、教育の場を人間らしさあふれる場にすることを願いつつ、そのために欠かせない教職員の権利確立の道標として「教職員権利憲章」を定める。

それは、すべての教職員の共同の目標である。

それは、子どもと父母・国民の願いと結びついている。

それは、平和と人権、民主主義をおしひろげてきた人類のあゆみにそうものである。

第1条(教職員の責務と権限

  1. 教育は、子どもが真理・真実を学び、人格の完成をめざし、平和的な国家および社会の形成者として育つことをたすける国民的ないとなみである。憲法・教育基本法はその指針であり、学校はその中心として大きな役割をになう。
    教職員は、たがいに尊重し協力しあい、主権者である国民の負託を受けて、教育にかかわるそれぞれの専門的な職務を通して、子どもの成長、発達する権利を保障する責務をになう。
    その責務の遂行のために、学問・研究の自由と教育の自主性が保障される。
  2. 学術研究の成果に依拠し、真理・真実にもとづく教育をすすめるため、教育課程の編成、教育計画、授業計画の決定、教科書の採択や教材、副読本の選択と使用の自由、評価の方法、校務分掌の決定、研修の自由と機会の保障など教育上の自主的権限は完全に認められる。

第2条(労働者・市民・人間としての権利)

教職員が人間らしい生活をいとなみ、国民に直接責任を負って教育をすすめるために、労働基本権をはじめとする労働者としての権利、思想・信条の自由、表現の自由、政治活動などの市民的権利、人間としての権利はいっさいの留保なく完全に保障される。

教職員は自主的に教職員組合に団結し、交渉し、行動する権利をもつ。教職員の賃金・労働条件は労使対等の団体交渉で決定し、教職員組合は教育政策決定などに関与する権利が保障される。これらの権利を制約するいっさいの諸法規は廃止されなければならない。

第3条(教育の充実と学級・学校規模、教職員定数)

  1. すべての子どもの実情がよくわかり、心のかよいあう指導ができる学級、人間的なふれあいのゆたかな学校にするため、その規模およびその他の条件は改善されなければならない。また、学校施設・設備には、教育的配慮のゆきとどいた設計や文化的・自然的環境の整備が必要とされる。
    子どもたちのゆとりある生活と豊かな文化の保障のため、それにふさわしい学校5日制が実現されなければならない。
  2. 教育の充実のためには、授業時間と同等以上の授業の準備と整理時間が確保されるとともに、その合計は、すくなくとも勤務時間の半分程度とされなければならない。
    教職員の仕事の内容について、教育本来の目的にそって抜本的を見なおしをおこなうことは不可欠である。
  3. 教職員の大幅な定員増をはかり、必要な職員の配置と定員が確保されなければならない。教職員の定員配置は、年次有給休暇権、その他の休暇権の完全な行使とすべての休暇の取得の保障、病気、欠勤、出張その他の状況を前提とする、合理的な出勤率にもとづいておこなうものとする。

第4条(労働時間)

  1. 教職員が十分な自由時間を享受することによって、人間性をゆたかにし教養を深めることは、人間らしさあふれる教育を創造する基本的条件である。
  2. 過重な超過勤務はただちに解消され、本来の仕事が勤務時間内に処理されるように必要な条件整備がはかられなければならない。
    国際水準に適合した、長期の有給休暇制度が確立されなければならない。
    当面、週休2日制の完全実施、週35時間制の導入、年次有給休暇権の確実な行使と拡大がはかられなければならない。

第5条(学校とその運営)

  1. 学校は、子どもたちがのびのびと学び、教職員がいきいきと誇りをもってはたらき、父母が安心して子どもたくすことができる場でなければならない。
    このような学校とは、いっさいの強制と暴力が否定され、子どもと教職員一人ひとりの権利の尊重と、すべての教職員の民主的な協議・合意を土台として、学校運営に民主主義がつらぬかれる学校である。
  2. 民主的な学校運営のもとで、学習権の保障をはじめとして、憲法・教育基本法、子どもの権利条約にうたわれている子どもの諸権利は保障される。したがって、子どもの発達段階に即して、学校生活全般にわたって子どもが意見を表明し、参加する権利が尊重される。
    子どもの成長・発達を願う父母・住民の、学校運営や教育活動にたいする意見が十分に反映されるなど、父母・住民の学校教育への参加の権利は保障される。

第6条(賃金・社会保障)

賃金は、労働者全体の賃金水準の向上を基礎に、教職員とその家族が人間らしく、健康で文化的な適正水準の生活をいとなむ必要をみたすものとする。

賃金は、ゆたかな文化を子どもに伝える精神的・文化的ないとみとしての教育の重要性を十分に反映したものとする。

いっさいの賃金差別は廃止されなければならない。

教職員の社会保障は社会保障制度全体の充実を基礎に、国と自治体の負担で実施することを基本として、教職員の負担を軽減し、積立金を適切に管理・運用しなければならない。

第7条(身分保障・研修)

  1. 教職員の雇用の安定と身分保障は、教育と教職員のために不可欠である。
    教職員と教職員組合が教職員の任免、分限、懲戒、退職などの人事に関与し、不利益処分にたいする弁明・救済の権利をもつことは、国際的に確認された原則である。
    教職員の採用、人事異動は、公正・民主的におこない、定員は正規の教職員によって充当されなければならない。必要やむをえず臨時教職員を配置する場合は、その身分の確立と待遇の改善がはかられなければならない。
    恣意的で非教育的な「勤務評定」制度は廃止されなければならない。
  2. 教職員の研修の自由と権利は十分に保障されなければならない。そのため必要な諸条件が整備されなければならない。
    教職員の自主性を否定し、管理統制強化をはかる初任者研修制度、指定研究などの押しつけは廃止されなければならない。

第8条(両性の平等と女性教職員の権利)

学校・家庭・社会において、真の両性の平等は保障される。

教職員の任用・配置などは、平等かつ公正でなければならない。

母性保護の権利を拡充し、女性教職員がほこりと生きがいをもち、安心して働くことができる職場環境が確立されなければならない。

家事・育児・介護などの過重な負担については、公的福祉の充実、性別による役割分業の是正を基本にその解決をはかり、家庭、職場における責任と分担の両性の平等が確立されなければならない。

第9条(健康と安全・衛生)

教職員が心身の健康を常に最高度に保持できるように、教育条件や職場環境の抜本的な整備・改善、健康・安全・衛生施策の充実がはかられる。

精神的、身体的な負担による健康障害を防止し、ゆとりをもって仕事にとりくめるよう特別な休暇の確保や、職場の困難度を考慮した定員の配置、教職員の精神的・身体的状況に配慮した仕事の分担などが保障されなければならない。

第10条(教育行政・財政)

  1. 教育行政は、憲法・教育基本法と地方自治の本旨にもとづき、子どもの学習権の保障をはじめとする、国民から負託された教育への責務を果たすために、教育の自主性の確保、十分な予算措置など教育条件の整備、確立を基本とする。そのため、教育委員の民主的選任、教育委員会の議会に対する予算、条例の原案送付権の確立など、直接、父母・国民に責任を負う教育行政が推進されなければならない。
  2. 学習指導要領の強制、教科書検定など教育内容にたいする権力的な支配・介入・統制、その他の命令監督行政は、ただちに排除されなければならない。
  3. 教職員と教職員組合が教育行・財政に積極的に関与する権利は、子どもの学習権保障にとって欠かせない権利であり、その行使は国民への責務である。
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