大学等給付奨学生採用候補者の推薦に関して、今年度から「資産の申告書」の提出が求められています。現場には当惑と怒りの声が上がっています。全教は7月11日に日本学生支援機構、12日には文科省に対して、資産の申告書の提出を求めないように緊急要請をしました。
現在、高校では来年度の大学等給付奨学生採用候補者の推薦に関する手続きが行われていますが、今年度から新たに家庭の資産の申告書の提出が求められるようになり、生徒・保護者と教職員に当惑と怒りの声が上がっています。
昨年度の条件は住民税非課税世帯であることと、社会的養護を必要とすること生活保護受給世帯であることでしたが、今年度は日本学生支援機構が示している推薦基準策定の基本方針に「該当者の選考にあたっては、贈与税の非課税措置がされる直系尊属からの教育資金一般贈与の受給者かどうかも考慮する」と書き加えられ、「その者及び生計維持者の資産の合計について、生計維持者が1人のときは1250万円以下、生計維持者が2人のときには2000万円以下であること」を選考基準にすると示されています。申告すべき資産は預貯金、有価証券、投資信託、現金、貴金属であり、現金についてはタンス預金、貴金属については金、銀の延べ棒などが例示されています。さらに「給付奨学生として採用された後に、申告内容の虚偽が判明したときには、支給された給付奨学金の全部を一括で返金していただく場合があります」とも明記されています。これを読んだ生徒や保護者は、当然、疑問点を教職員に問い合わせますし、給付奨学金を申し込むことを躊躇する人も現れると予想されます。教職員の負担は増え、給付奨学金の拡充にもつながりません。
全教の要請に対して、日本学生支援機構は、「昨年度の予約実施分について、実際に収入を確認したところ、住民税非課税世帯でも1000万円近くの収入のある人がいた。また、1500万円まで非課税となる祖父母からの教育資金一括贈与制度もできたことから、文科省と協議して、資産の申告を求めることとした」と述べるとともに、「教職員の負担とならないように、資産の申告は家庭で封印して学校に渡すこととした。今年度は推薦手続きも締め切りも近づいており、止めることはできないが、各校の担当者からも多くの問い合わせがあり、今後、どうしていけば良いか、検討中である」と回答しました。具体例をあげるよう求めたところ、文科省は、「昨年度は資産の申告を求めていないので具体例を把握していない」としつつ、「就業していなくても裕福で立派な車や家を持っているという指摘がある。貸与型と違って返還の必要がないので、不公平にならないよう社会的な説明責任が求められる。所得の確認のしかたについても改めて見直している」と述べました。
全教の「ごく一部の例を持って、希望者全員にこのような申告を求めることは、財布の中身を見せろと迫るようなものであり、経済的困難を抱えている人の進学を後押しするという理念にもとるのではないか。せっかくスタートした給付奨学金を縮小させてしまうのではないか」との追求に対しては、日本学生支援機構も文科省も、消費税増税を前提にした「パッケージ」が政策化されていることに触れて「給付額も対象者数も確実に増えていく」との回答でした。そこには逆進性という特徴を持つ消費税を活用することが奨学金制度にかなうものであるかという問題意識は感じられませんでした。さらに、日本学生支援機構が来年度進学予定者に対して、給付、貸与いずれの奨学金の申し込みについてもマイナンバーの提出を求めていることについては、機構側は「マイナンバーを出せないから奨学金を申し込めないということではない。従来通り、所得証明書でもよい」としつつも、「マイナンバーは浸透すれば便利な制度である」と述べ、文科省も「事務手続きをかなり軽減できると思う」との見解を示し、マイナンバーを奨学金制度と関連させて、社会的に普及させようとしていることが明らかになりました。
全教は、日本学生支援機構、文科省双方に、給付奨学金の導入は社会的に歓迎されていると指摘し、希望する人すべての進学を後押しするという理念に基づいて、その拡充に努めるべきことを強く要請しました。