全教は3月15日(水)、文部科学省と「全教2017年春闘要求書」にもとづく交渉を行いました。全教から蟹澤昭三中央執行委員長、小畑雅子書記長をはじめ10人が参加し、文科省からは矢野和彦初中教育局財務課長、初等中等教育企画課 上田健太専門職、財務課定数企画係 斉藤健一係長、財務課高校修学室高校修学第一係 藤田法彦係長が参加しました。
交渉の冒頭、蟹澤委員長から、この間の文科省の天下り問題について「文科省ぐるみの組織的なものであり、文科行政への国民の信頼を裏切った。断じて許すことはできない」と述べたのに続き、前日の松野文科大臣の会見について、「教育勅語の学校での活用を容認するような発言については極めて遺憾であり、許されるものではない」と表明しました。また、貧困と格差の拡大のもとで苦しむ子どもたちを支える教育政策と、全国で長時間過密労働で奮闘している教職員を真に励ます政策の前進をお願いしたいと述べました。
これに対して、文科省は、「今回の国家公務員法違反が明確になった事案について、我々としても省をあげて反省している。教育行政に対する信頼を損なったということに対しては、心からお詫びをしたい。また、子どもの貧困と格差の問題について、重大な問題だと思っている。こういった状況に対して義務教育がどうやって対処していくか、我々なりに考えてきた。次の定数改善等に取り組んでまいりたい」と答えました。
交渉は3つの重点要求にそってやりとりがおこなわれました
教員の時間外労働について、臨時・緊急の限定4項目以外の時間外労働は違法であり、許されないとの給特法の趣旨をすべての学校に徹底し、時間外勤務については、「振替」などで適切に調整することという要求に対し、文科省は「教員の勤務時間管理は週休日の振り替えを含め服務監督権者である各市町村教育委員会において適切に対応すべきものと考えている」「現在学校を取り巻く状況は複雑化、多様化しており、教員の多忙化を解消し子どもと向き合う時間を確保するためには教員の業務軽減も重要である。文科省として引き続き勤務時間管理の考え方について通知等で周知するとともに、学校現場の業務改善に取り組んでいきたい」と回答しました。これに対し全教の米田副委員長は、「長時間労働や時間外勤務が学校現場に蔓延化している実態を異常だと思われないことが異常だ。法令順守義務ということがこの間学校でも強調されているが、給特法がなきのごとくの教育委員会や管理職の言動が目に余る」と発言しました。また小畑書記長は「具体的に法を踏みにじるような実態があり、文科省として業務の改善が必要だと回答せざるを得ない状況が学校の中にあることが事実で、そのこと自体が給特法の趣旨を踏みにじっている。文科省としてもこの事実を受け止めて、様々な場で強調していただきたい」と述べました。文科省は「我々もこの問題については表に出して取り組んできた。今年度については勤務実態調査も行った。大変な問題だと思っている。今年1月の大臣メッセージでも、そういった意味を込めたつもりだ。来年度から学校現場における業務改善特別プロジェクトを実施する。時間外勤務削減に全面的に取り組む。もちろん教職員定数の改善もさらにやっていく。全教の要望以外にも、都道府県からも多数要望をいただいている」と述べました。
高校授業料の所得制限を撤廃して「高校無償化」を復活させるとともに、学校設置者を問わず高校等授業料の完全無償化を実現するとともに、所得制限の基準を910万円から引き下げるなという全教の要求に対し、文科省は「私立学校に通う低所得世帯への支援の拡充や、低所得世帯の授業料以外の教育費負担の軽減をするための、いわゆる高校生等奨学給付金制度、高校版の給付型奨学金を創設した。平成29年度予算においても、教育費負担の軽減を図るため高校生等奨学給付金予算の拡充ということで、予算に盛り込んだ。今後とも引き続き、高校生等への就学支援の充実に取り組んでまいりたい」と回答しました。これに対し、坂本中央執行委員は「私たちの要求の趣旨は、高校の授業料無償化に戻してほしいということ。3年経過後の見直しということで逆に所得制限の導入という、世界に例のない、高校の授業料に所得制限を導入するものになった。来年度見直しにあたって、無償化に戻してほしい」と強く要求しました。これに対して文科省は、「この問題は、どこに重点を置くかという問題だ。高校の3割は私学が担っており、しかもどちらかと言えば厳しい層を引き受けている。そこに着目してこういった所得制限をかけて、そこで生まれた財源を使って制度を作ったという趣旨を理解していただきたい。今後教育の無償化論というのがどういう形で議論がすすむのか、我々も注視していきたい」と述べました。
また、教育活動に必要な教職員の正規採用、定数内教職員の正規配置、「定数崩し」による臨時教職員の増大の是正、臨時教職員の賃金・労働条件改善、正規教職員との均等待遇等の要求に対して、文科省は「教職員の採用・配置については任命権者である都道府県教育委員会、政令市教育委員会が行うと考えている。平成29年度予算において、加配定数の一部の基礎定数化を盛り込んでおり、地方自治体における安定的計画的採用に資するものと考えている。文科省として、今後とも学校現場に必要な教職員定数の充実・確保に努めたい」と回答しました。この回答に対し、全教の浅田中央執行委員は、「先日の衆議院の予算委員会で、松野文科大臣は『教育の機会均等や、教育の水準の向上を図るためという観点から、可能な限り正規の教員が配置されることが望ましい』と答弁している。それにもかかわらず学校現場には非正規の教員が多数存在し、日々の教育活動を支えている。定数内の非正規教員もたくさんいる。こんなふうにたくさんの非正規教員が配置されているため、本当に必要なところに人が配置されない状態、教職員未配置、『教育に穴が開く』事態が生じている。それは一部の自治体にとどまらず、全国的に広まっており、現場からは『担任の先生が来ない』『授業が自習ばかりになっている』というような声も聴いている。これで本当に子どもの学習権が保障されていると言えるのか、その検証をしてもらいたい。予算委員会の質疑でも人事上の工夫等で適切に対応できていると回答していたが、『教育に穴が開く』、教職員の未配置の問題はすでにその範囲を超えてしまっている。それはやはり制度的な問題があると考えざるを得ない。今まで文科省がやってきた総額裁量制や定数崩し等の制度分析を行わないのか。全教は各地域で、正規採用を増やすように求めているが、必要な教職員を正規で配置していくようにお願いしたい」と、全国の深刻な実態を踏まえた、文科省の責任ある対応を求めました。この指摘に対し、文科省は、「我々としても、できる限り常勤による配置が望ましいという考えは持っている。来年度予算要求で加配定数の一部の基礎定数化を行った。都道府県としっかりお話をさせてもらいながら、対応をしていく必要があると思っている。それぞれの教育委員会が自治体の状況に応じてしっかりとした教育がなされるようにということをお願いしている」と、文科省の対応を説明しました。小畑書記長は「こういった状況を生み出している総額裁量制や定数崩しに問題があるのではないかと我々は考えている。それらを見直すことは検討していないのか」と文科省に検討を求めましたが、文科省は「総額裁量制は三位一体改革、地方に裁量を増やすべきという議論の中で、それにこたえて措置したものだ。その結果都道府県の裁量が増えたというメリットがある。総額裁量制と定数崩しについての検証は今のところ考えていない。三位一体改革や、負担率を3分の1にした問題などは常に我々も関心を持っているところではある」と述べるにとどまりました。これに対して全教今谷副委員長は、「こういった深刻な実態、特に教職員が配置をされていないという事態は広がりつつあると思っている。その大本にあるのは、教職員定数の中で非正規の占める割合が圧倒的に伸びていることがある。非常勤講師の割合がすごく伸びている。教員免許を持っている人は限りがあり、産休とか突発的な病休とかの代替が配置できない状態が生まれている。教職員は正規で埋めるんだというふうに変えなければ、今の事態は変えることができない」と、文科省の姿勢を正しました。文科省は「非正規教員が15%くらいになっているし、その数は増えている。それが問題ではないとは思っていない。とはいっても、予算とリソースをどこまで有効に使うかということでの教育委員会の判断というものを、我々としてはどうしても尊重せざるを得ないということもご理解願いたい。担任が何か月も不在だというのは異常事態だ。そういう実態があるのなら、ぜひ教えてほしい」「標準法の定数は学校ごとの計算ではない。教育委員会として、どこの学校にどういう人材が必要か、どれだけの人数が必要なのかしっかり考えていただく必要がある」と、回答しました。
最後に、全教小畑書記長が「本日お願いしたことについては、私どもとしても情報を提供したいと思っているし、文科省としても状況をつかんでほしい」と、今後の積極的な対応を要請しました。また、全教蟹澤委員長は「 皆さんと一緒に、教育予算全体のフレームを増額させるということに力を尽くしていきたいと思う。その点ではみなさんにも頑張ってほしい。限られた予算でと課長はおっしゃるが、その限られた予算を膨らませないといい教育はできない」と、交渉を締めくくりました。