『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

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  • 全教共済
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「2017年度文科省概算要求」について交渉

 全教は8月5日、「2017年度政府予算にかかわる文科省概算要求」についての交渉を行いました。

 交渉の冒頭、蟹澤中央執行委員長が「18歳選挙権成立後、はじめての国政選挙が行われた。この間、全教と文科省とで、現場の教職員が委縮することのないよう主権者教育をすすめることを確認してきた。自民党がホームページを通じて情報提供を呼びかけた問題は、現場への恫喝に等しく教職員への不信を煽るものだった。このことに対して前文科大臣が理解を示したことは極めて遺憾である。」と指摘し、私たちの切実な要求を受け止め、教育政策を前に進めていくことを要望しました。

 次の5つの重点要求にそって交渉をおこないました。
 「高校無償化」の所得制限を廃止し、給付制奨学金創設などの具体的政策を計画的に実施するよう求めたことに対して、文科省の出分日向子高等教育局学生・留学生課法規係長から「国際人権規約に定める無償教育の漸進的導入ということから、意欲や能力のある学生が経済的理由で進学や就学を断念することなく、安心して学ぶ環境を整備することが重要。教育の機会均等に向けて取り組んでいる。高等学校における給付型奨学金はすでに創設されている。大学段階の給付型奨学金は、省内に検討チームを設置して有識者の参加を得て制度設計を行っている。8月10日に閣議決定された経済政策にも盛り込まれた。29年度の予算編成過程の中で制度の具体化を進めていきたい」との回答がありました。また、武田久仁子財務課高校就学支援室企画係員は、「高校無償化」について、「所得制限の導入で私立学校に通う低所得世帯への支援の拡充、低所得世帯のための高校生等奨学給付金制度を創設している。高校生に対する返済不要の給付型奨学金は平成27年度から着実に進めている。28年度は生活保護世帯における給付対象の拡充、給付額の増額を行った。今後とも制度の拡充を含め検討していきたい」と回答しました。これに対して、檀原毅也書記次長は、「『高校無償化』について、高等学校等就学支援金制度の見直しに当たっては、制度変更の際の参議院での付帯決議にもあるように、所得制限をなくす方向で検討していただきたい。それが可能となる予算要求をしてほしい。また、910万円という現在の所得制限の金額について、引き下げは考えていないと明言してほしい」と訴えました。また、中村尚史副委員長から、給付制奨学金制度について、高校でのさらなる拡充を求めるとともに大学についての来年度予算における見通しを問いただしました。これに対して、文科省からは、2017年度中に具体化をはかるが、対象者や予算規模などはまだ回答できる段階ではない、というものにとどまりました。

 2017年度の政府予算において、小・中・高のすべての学年での35人学級を実現させるために、教職員定数改善の措置を講じることとの要求に対しては、斎藤健一財務課定数企画係長から「学校における指導体制の充実という点で、35人以下学級は、よりきめ細やかな指導が可能になる、学校現場からの要望も多く寄せられ、有効な施策の一つと考えている。一方限られた財源のなかで、総合的に判断をして戦略的に定数改善をはかっていく必要がある。7月29日『次世代の学校指導体制強化のためのタスクフォース』が最終まとめを出し、基礎定数、加配定数の性質をふまえ、効果的な教職員の定数改善を行う必要性があると明記しており、次世代の学校指導体制に必要不可欠な教職員定数の充実に向けて29年度の概算要求に向けて引き続き検討していきたい」との回答がありました。これに対して、浅田明日香中央執行委員が、35人以下学級について、安倍首相の「35人学級の実現に向けて鋭意努力していきたい」との国会答弁にもとづいた対応を求めるとともに、「自治体の努力任せでは、地域間格差が広がるし、地方の財政にも限度がある。国の責任で少人数学級を前進させてほしい」と強く訴えました。

 高等学校の通級による指導の制度導入にあたって、実施校には最低2人の教員配置を行った上で、対象生徒10人につき1人の加配を行うなどの条件整備の要求に対しては、斎藤係長が「高校における通級による指導は平成30年度をめざして制度化をすすめている。必要な教職員の確保をはじめとする環境整備を含め、教職員の理解、保護者生徒の理解が必要。特別支援教育に対する理解に努めていきたい。定数に関しても検討していかねばならない課題であり、ご意見をうかがいながらすすめていきたい」と回答しました。これに対し、土方功書記次長から「高校の通級指導については、制度を2018年度から始めるというが、今の段階では定数も決まっていない。私たちは制度としての通級指導は始めるべきだと思っているが、今の小中学校と同じような形でやっていくとすれば破たんする。加配1名ぐらいではとてもではないがやりきれない。きちんと定数配置をしないと、この制度をいかすことができない」と訴え、別途要請の機会を設けることを重ねて要求しました。

 「雇用と年金の確実な接続」を図る課題については、斎藤係長から「基本的には一般の地方公務員との均衡を考え、全体の制度の中で、教職員がどうあるべきかを考え、検討していくべきと考えている」との回答がありました。

 部活動指導が教職員の長時間労働の一因となっている事実を踏まえ、長時間勤務解消に向けた実効ある措置を講ずることとの要求に対しては、三木直樹学校運営支援担当専門職から「教員の長時間勤務は世界トップクラスで、業務に忙殺されている状態は、教員が子どもと向き合う時間を奪っていると認識している。向き合う時間の確保、環境整備が喫緊の課題。学校の指導体制の充実はもちろん、業務改善をしていかなければならないと認識している。6月13日に「次世代の学校指導体制強化のためのタスクフォース」報告を取りまとめた。報告は①教員が本来担うべきものに専念できる環境を保障、②部活動は、教育的な意味はあるが、いきすぎは弊害を生むという認識のもと、休養の適正化をはかる、③労働時間の管理ということで、入退校時間の管理についても検討していく、④休養日の設定等の4点を柱としている。平成14年度からの実態調査やスポーツ医科学の観点をふまえ、調査研究も行いながら、来年をめどに、総合的な部活動のガイドラインを策定していく。学校現場における業務の適正化に向けた支援にとりくんでいく」との回答がありました。これに対し、米田雅幸副委員長は、部活動が教員の長時間勤務の一因になっているということでは、文科省と認識に差はないと述べ、部活動問題は生徒たちの健やかな成長発達を保障する側面からのアプローチが重要だという観点を含めて、「①生徒が真に休養できる時間や日を保障すること。少なくとも土日のうち1日が休養日として確保できること。生徒自身が自由に使える時間を保障することが必要。②生徒や教職員の経済的負担を軽減する抜本的措置が必要。生徒の公式戦を含めた交通費負担の軽減、教職員の出張旅費、用具、審判講習料が教職員の自前で負担になっていることへの公的な措置は切実な課題になっているというのが現場の声。③部活動の実態と現状にかんがみて、当面する課題として、部活動中の公務災害補償をはじめ、公務として認定すること、また、特殊業務手当の引き上げは現場の声が大きい。給特法や勤務時間の整合性を担保する文科省としての責任ある考え方を示すことが必要。タスクフォースで部活動は教育的側面で意義が高い、学校教育活動の一環としての役割を果たしていると認識を示しているのなら、文科省が教育条件整備のための予算的措置などの責務・役割を果たしていただきたい。ガイドライン策定にあたっては、全教を含む教職員組合の真摯な意見、現場の声を反映する機会、仕組みをつくってほしい」と強く要求しました。この訴えに対し、文科省は「3点はきちんと受け止める。ガイドラインの策定については、教員の勤務負担の軽減、生徒の健全な成長・発達を促す観点からも見直しをすすめるもので、意見を取り入れさせていただきたい」と回答しました。

 交渉にあたって、文科省から矢野和彦財務課長が「現状認識に違いはないと考えている。問題はどう実行するかということ。昨年、昭和44年度の創設以来初めて教員加配を削減するという危機にみまわれ、なんとか阻止できた。今年「タスクフォース」の議論や文科副大臣のもとにできた「次世代の学校指導体制の在り方」に戦略論も込めた。これからしっかり反撃に移る。報告書にかかれたことをさらにすすめなければと考えている。ぜひこのような機会を頂戴したい。」と述べました。
 最後に、蟹澤委員長が「安倍首相が自ら公約に掲げている給付制奨学金創設の問題や少人数学級の問題を、責任をもって具体化をすすめてほしい。現場がたいへんな中、全国の教職員がやりがいとゆとりをもって子どもたちに向き合っていけるようにさらに努力していただきたい」と述べて交渉を終えました。なお、交渉に合わせて、えがお署名の追加分4127筆を提出しました。7月27日の提出分と合わせて、9万2828筆となりました。
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