『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年11月号 10月20日発行〉

【特集】ともに歩もう! ジェンダー平等と教育の世界へ

  • 全教共済
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学校現場で働く教職員の努力に報い、励ます諸施策の実現を ~文科省と2016春闘要求交渉~

  全教は3月25日(金)、文部科学省と「全教2016年春闘要求書」にもとづく交渉を行いました。全教から蟹澤昭三中央執行委員長、小畑書記長をはじめ10人が参加し、文科省からは串田俊巳初中教育課企画課長をはじめ11人が参加しました。

 交渉の冒頭、蟹澤中央執行委員長から「子どもの貧困問題は社会的に大きな問題であり、国の文教政策そのものが問われている。具体的な政策の実現をお願いしたい。さらに、教職員の長時間過密労働解消など、全国で奮闘している教職員を励まし、労働条件の改善に向けた文科省の施策を進めてもらいたい」と発言しました。これに対して串田企画課長から「大変忙しい学校現場で子どもに真剣に立ち向かっている教職員に感謝する。委員長が指摘した子どもの貧困、教職員の多忙化について、文科省としても対応していきたいと考えている」と応えました。

   交渉は5つの重点要求にそってやりとりがおこなわれました。
   18歳選挙権の実現に関わって、文科省が発出した高校生の基本的人権を侵害する新たな「通知」の撤回と高校生の政治活動の自由を保障する要求に対し、文科省の広瀬章博児童生徒企画係は「通知については公職選挙法の改正に伴って、現場から見解を示してほしいという要望があって、教育関係者や法律家から意見を聞いて出した。撤回は考えていない」「選挙法の改正趣旨に則って、高校生の活動を制約する意図はないし、運用において過度の制約をすることのないように工夫していきたいと考えている」と回答しました。これに対し、中村尚史副委員長は「制約すること自体が問題であるという立場に立つべき。基本的人権であって、侵すことのできない基本的な権利」「政治的活動はあくまでも個人の考えに基づいて行うこと。再度強く要望しておく」と発言しました。

    全教がCEARTに提出した長時間過密労働の解消、非正規教員問題の改善にかかわる申し立てにもとづき、誠実な協議・交渉をすすめるよう求めたことに対して、文科省は「長時間過密労働の解消については重要なことと認識している。業務改善ガイドラインを現場に周知させたり、教育委員会を指導してきている。またチーム学校のとりくみで、部活動指導員の導入を積極的にすすめようとしている。可能な限り我々も取り組んでいきたい」「非正規についても平成26年に通知を出して、各種会議の場で事務担当者等に周知しているところ」「未来を担う子どもは大切だという点では全教とも一致していると考えている。国内法制の範囲でILO・CEARTの勧告を尊重して執行していきたいと考えている」と答えました。これに対し、米田雅幸副委員長は「教職員の時間外労働、過密労働、非正規問題等の解決については重要な課題と考えているのは、文科省も地方教育行政も全教も認識が一致している。CEARTの中間レポートも踏まえて、文科省に対して別途申し入れを行う予定だが、誠実な協議・意見交換を行うための場の設定など、協議に入ることのできる環境の整備をお願いしたい」と発言したことに対し、文科省の上田健太企画教育公務員専門職は「このような場を通して話し合い等をしていきたいと考えている」と答えました。また、小畑書記長は「CEARTの中間レポートで、誠実な協議・交渉を望んでいるし、1年以内にその進展について報告を求めている。その内容を最大限に尊重して対応していただきたい」と要望しました。

 東日本大震災被災地における子どもの実態、学校の実情にもとづく教職員の加配要望に即して教職員配置をおこなうこと(教育復興支援加配を継続・拡充、スクールカウンセラーなど専門職員の積極的な配置の継続、養護教諭の複数配置や、学校事務職員の加配、中学校区を単位にスクールソーシャルワーカー等の配置と活用)を求めたのに対し、文科省の廣石財務課定数企画係長と舛金紀幸児童生徒課生徒指導室生徒指導第2係は、「加配部分について、被災児童のための学習支援の加配措置は各県からの要望を申請通り措置してきた。来年度においても同じように措置する見込み」「息の長い支援が必要と考えており、引き続き要望がある限りしっかり対応できるように頑張っていきたい」「スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーについては、被災地の児童の心のケアのために平成23年度補正予算から毎年措置してきた。平成28年度予算で、委託のかたちから全額国庫補助のかたちにして、引き続いて措置していきたい」「養護教諭、事務職員についても震災対応として、要望通り引き続き措置していきたい」と回答しました。

    国際人権規約社会権規約13条2項(b)(c)の留保撤回をふまえ、中等・高等教育段階の「無償教育の漸進的導入」をいっそうすすめる計画を策定し、その際、給食費の無償化など「義務教育の無償」や「高校無償化」の復活、「給付制奨学金制度」などを充実・発展させる立場での検討をすすめることを求めたのに対し、文科省の橋本元樹健康教育食育課学校給食係長、水島淳財務課高校修学支援室企画係、出分日向子学生留学生課法規係長は「保護者負担無償化になると総額はかなりの規模になる。財源をどうやって確保するか、また学校給食を実施していないところとの不公平が生まれる」「高校授業料に所得制限導入は、一定の財源を全員無償化にするのか低所得者など教育の機会均等をはかるのか、どちらが効果的か考えて制限を導入した。漸進的に効果を発揮すると考える。今後あり方を検討していきたい」「高校段階の給付制奨学金について、認識の共有はできていると考えている。経済的理由によって進学を断念することがないように教育費負担の軽減を図っている。有利子から無利子への加速を図ったり、所得連動型奨学金について制度設計を行っている」「給付型奨学金については文科大臣も思いが強いと思う。財源とか対象者の選定など課題があり、今後も検討が必要」と答えました。これに対し全教坂本次男中央執行委員は「所得制限導入によって生まれた財源はすべて高校生の就学支援に使うと、導入時に文科大臣は約束した。しかし、来年度予算では、保育料の軽減などの財源に使われると財務省がHPに資料を出している」「財源である900億円が高校生の就学支援に使われることがはっきりわかるような内訳、一覧表を出してほしい」「来年度の見直しにおいて、衆参の付帯決議(所得制限を行うことなく予算確保を行う)に基づいて、目的外に使われることのないように」と発言しました。さらに小畑書記長は「少なくても高校生の就学支援に使われているのかどうかということについて、もっと突っ込んだ回答をもらいたい。2015年度分については財源の配分について後日回答をいただく」と確認しました。

 教職員の正規採用配置、「定数崩し」による臨時教職員の増大の是正、臨時教職員の賃金・労働条件の改善については、「文科省として可能な限り正規教員の配置が望ましいと考えている「臨時教職員の賃金等の基準や水準を定める際には正規採用と同じように職務給の原則を踏まえて、職務の内容と責任に応じて定めるべきであると考えている」「義務教育費国庫負担金の算定においても、同じ職名、経験年数であれば臨時であっても同一の給与単価で負担しており、各県の旧担当者にも周知していきたい」と回答しました。これに対し全教今谷賢二副委員長は「可能な限り正規教員をというが、非正規は全国平均で10%近くになっている」「全国で起きていることはとても深刻だ。定数内が埋まらずに1年間未配置という報告もある」「全国の実態を調べていないなら、直ちに調べて具体的な対応をしろ」と追求しました。さらに小畑書記長は「実際に措置されていない例があるから、現場は無理をして穴を埋めている。子どもたちにしわ寄せがいっている。放置していていい問題ではない」と発言しました。

 交渉の最後に小畑書記長から、被災地の学校の実態に応じた措置を再度要望するとともに、18歳選挙権実現に関わる文科省通知に関わって、政治的活動はあくまでも個人の考えに基づいて行うことであり、人権を侵す「制約」をすべきでないことを再度強く要望して交渉をしめくくりました。
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