【基調報告】山口 隆 全日本教職員組合 中央執行副委員長
はじめに 本集会の開催の意義について
文部科学省は、4月24日に、不参加表明している愛知県犬山市と約4割の私学をのぞく、全国すべての小学校6年生、中学校3年生を対象に、全国一斉学力テストの実施を強行しようとしています。後で述べるように、私たちは、この全国一斉学力テストの中止を求め、この間、さまざまな運動を展開してきました。その運動は、全国一斉学力テストの危険なねらいと道理のなさを浮き彫りにし、重要な到達点を築きました。実施強行を目前に控えた時期となっていますが、最後まで中止を求める運動を、改悪教育基本法具体化を許さぬとりくみの緒戦のたたかいとして、全力をあげましょう。
同時に、たとえ実施が強行されたとしても、今後実施できないよう、政府・文部科学省を追い込む運動をすすめなければなりません。そのため本集会は、後ほど、教育課程の専門研究家、学力テスト問題で重要な声明を出された自由法曹団の弁護士、地域からとりくみをすすめておられる父母、教職員から発言を受け、さらに問題を深め、討論し、到達点を確認するとともに、今後のとりくみの展望を共有すること、同時に、このとりくみを改憲手続き法案廃案、教育改悪3法案廃案を目指すとりくみと固く結んですすめる意思統一を行うこと、を目的として開催します。ぜひ有意義な運動交流となるよう、積極的な発言をお願いします。
1.全国一斉学力テスト中止を求めるとりくみの経過
まず、全教は、2006年度の春闘交渉において、全国一斉学力テスト問題を最重点にかかげ、中止を求めて文部科学省を厳しく追及し、旭川学テ最高判決も示して、「実施は市町村の判断」と確認させました。さらに、文部科学省が概算要求で、全国一斉学力テストの準備予算として29億円を計上した2006年度の概算要求期の交渉で、引き続き中止を求めつつ、いっそうの競争強化と子どもと学校の序列化、格差づくりをすすめるもの、との本質問題を提起して文部科学省を追及し、文部科学省から「いたずらに結果を公表して競争をあおる、誤った運用にならないように、心がけていきたい」という答弁を引き出しました。
同時に、教育基本法闘争の最中ではありましたが、10月に、Q&A形式の職場討議資料を作成し、中止を求める運動を教育基本法闘争と結合してすすめることを呼びかけてきました。
2007年に入り、2月の段階で、全国一斉学力テストが、競争強化と子どもと学校の序列化、格差づくりという問題に加え、子どもと家庭のプライバシー保護にかかわる憲法にも抵触する重大問題を持っていることが、実施マニュアルによって明らかになりました。この段階で、全国代表者会議と引き続く全教第24回定期大会で問題提起し、各地からのとりくみをすすめることを呼びかけました。また、2月20日には「全国一斉学力テストの中止をあらためて強く求めます」という中央執行委員長としての声明を発表し、社会的アピールを行いました。
子ども全国センターは3月7日、民主教育研究所や全教も参加して文部科学省への要請行動を行い、憲法にも抵触する重大問題であると、厳しく文部科学省を追及しました。
この問題は、国会でもとりあげられ、日本共産党石井郁子議員の質問に、文部科学省はまとも答弁できませんでした。
このとりくみと並行して、全教、教組共闘、子ども全国センターは、連名のビラを132万枚作成し、国民に事実を知らせ、中止を求める世論形成にとりくみました。全国各地でも、独自の討議資料、ビラ、などの作成、緊急学習会の開催など、学習と世論喚起のとりくみがすすめられました。
とりくみは、さらに広がり、小森陽一東京大学教授、佐藤学日本教育学会会長ら8人が呼びかけ人となって「子ども全員の個人情報を企業にゆだねることに反対し、個人情報保護法・憲法にもとづく対応を求める賛同アピール」を発表し、4月2日には、呼びかけ人である堀尾輝久民主教育研究所代表、米浦正全教委員長などによる共同記者会見が行われました。マスコミも注目し、この内容は「しんぶん赤旗」「朝日新聞」「東京新聞」が報道しました。
このようなとりくみの中で、文部科学省は、3月29日付で固有名詞を記入しない「氏名・個人番号対照方式」も可能とする連絡文書を、各都道府県教育委員会に向けて発出せざるを得なくなり、各地で、地方教育委員会に対する交渉が展開され、かなりの自治体が、この方式を採用することを決定しました。
ところが、その直後、地方教育行政の自主的決定に圧力をかけ、自主的決定を妨害する文部科学省通知が出されました。この結果、すでに固有名詞記入を行わない自主的決定を行っていた市町村教育委員会が、その決定を取り下げる事態となったところも生まれました。
全教は、個人情報保護を妨害する文部科学省の姿をマスコミにも提起し、社会問題としてとりあげるよう、要請しました。文部科学省は10日に「氏名・個人番号対照方式」を採用、あるいは検討している市町村教育委員会などを対象に、「説明会」を開催しましたが、結果的には文部科学省が地方教育委員会をしめつける会議とはならず、文字どおり説明を行ったうえで、市町村教育委員会に対してさらに検討を提起し、「氏名・個人番号対照方式」をとるかどうかの締切日をまた延長するという状況となっている模様です。
現時点で、大阪と滋賀では、すべての市町村が「氏名・個人番号対照方式」をとることになったと報告されており、私たちのとりくみが文部科学省を追い込み、文部科学省は、実施強行を目前にして、なおグラグラ揺れている状況にあります。
全教は、12日に行った2007年度春闘期の文部科学省交渉で、あらためて全国一斉学力テストの中止を求めるとともに、個人情報保護の問題について、「旭川学テ最高裁判決の立場に立つこと」を再度確認したうえで、「旭川学テ最高裁判決では、『文部大臣が地教委にその義務の履行を求めたとしても、地教委は…独自の立場で判断し、決定する自由を有する』とされており、個人情報保護について、市町村教委が『氏名・個人番号対照方式』を採用した場合、文部科学省はこれをそのまま認める立場にあるはずである」と厳しく追及しました。これをめぐって、あれこれのやりとりがありましたが、文部科学省は、「最終的には市町村の判断」と回答しました。また、締切日については、一応13日としているが、無理な場合は16日としている、ということであり、なお、この問題で市町村教育委員会に自主的判断を求めるとりくみは可能です。最後まで追求しましょう。
2.現時点での到達点について
私たちの運動は、現時点で以下の到達点を築いています。
第1は、現時点で、文部科学省に全国一斉学力テストを中止させるには至っていませんが、プライバシーに踏み込む「質問紙調査」の内容の変更、固有名詞を記さない「氏名・個人番号対照方式」を可とする、などを言わざるを得ない状況に追い込んだことです。
第2は、文部科学省が地方教育行政の自主的判断に対する妨害を行ったために、「氏名・個人番号対照方式」の自主的決定を行った市町村教育委員会は、文部科学省の圧力に対し、強い怒りを隠そうとしない状況となっていることです。この背景には、安倍内閣の教育政策が、さらに地方教育行政との矛盾を広げていることがあり、この間の全国一斉学力テストのとりくみによって、私たちと地方教育行政との共同の可能性は大きく広がりました。
第3は、まだ十分とはいえませんが、この間のとりくみをとおして、全国一斉学力テストがいっそうの競争強化と子どもと学校の序列化、格差づくりであるという本質が、個人情報保護にかかわる重大問題ともあいまって、かなり多くの国民の前に明らかにされてきたことです。同時に、文部科学省が受験産業丸投げで行ってきていることの重大問題も明らかにされ、このことに対する父母・国民のみなさんの怒りと不信も大きくなってきています。
第4は、全国一斉学力テストについて、マスコミも注目し、報道するなど、たとえ文部科学省が実施を強行したとしても、今後引き続き大きく社会問題化し、世論と運動の力で中止に追い込んでいくうえでの重要な足がかりを築いたことです。
3.今後のとりくみについて
以上の到達点を踏まえ、今後のとりくみについて、提起します。
第1は、文部科学省が実施強行を予定している4月24日まで力をゆるめず、最後の最後まで中止を求める運動を展開することです。実施予定日が近づくにつれて、これまであまり論議されてこなかった職場であっても、職員会議での話し合いをはじめ、話題にせざるを得ない状況となります。また、実態を知らされてこなかった父母のみなさんも、この問題についての関心が高まらざるを得ません。このもとで、全国一斉学力テストはいっそうの競争強化と子どもと学校の序列化、格差づくりとともに、個人情報保護にかかわる重大問題を持っているという、職場からの世論、父母・国民の世論を引き続き大きく高める条件は、さらに広がってきます。私たちは、当然のことながら、物理的抵抗は行いませんが、この条件を生かし、さらに世論と運動を広げることが重要です。
そのために、以下のとりくみをすすめましょう。
①全国一斉学力テストが、いっそうの競争強化と子どもと学校の序列化、格差づくりをすすめるものという本質問題を提起し続け、国民世論を高める。
②個人情報保護にかかわる重大な問題点を引き続き明らかにしつつ、とりくみをすすめる。
③同時に、これを妨害する文部科学省の反国民的体質を社会問題化し、文部科学省を国民世論で追い詰める。
第2に、全国一斉学力テスト強行実施に対しては、国民的検証運動をすすめ、今後実施できない状況に追い込むことです。そのため、以下のとりくみをすすめましょう。
①全国一斉学力テストが、いかに教育をゆがめるかについて、現場からのリアルな告発を集約する。
②教科、質問紙調査を含め、問題の分析を行う。
③全国一斉学力テスト強行は、必ず父母・国民との矛盾を引き起こさざるを得ず、PTAに対する申し入れ、懇談等をとおして、全国一斉学力テストの重大な問題点をあらためて明らかにし、父母・国民の世論で、今後実施できない状況に追い込む。
④国と地方との矛盾が大きく広がっているもとで、とりわけ、市町村教育委員会を重点に、地方教育行政に対する申し入れ、懇談を行い、この間の政府・文部科学省のやり方の理不尽さを提起するとともに、地方教育行政の自主性確立を求める。
⑤2008年度文部科学省予算に全国一斉学力テスト実施のための予算を計上させないとりくみを強化する。
・そのため、当面、学力テストのための予算を計上しないことを第1課題にかかげた文部科学省概算要求期に向けた個人署名を、30万を目標に、全教職員を対象にすすめることはもちろん、父母のみなさんにも広く訴え、多くの署名を文部科学省に提出する。
・この職場世論、検証運動を背景に文部科学省交渉を行い、文部科学省を徹底的に追及する。
以上のとりくみを提起します。全国一斉学力テストは、「戦争する国」の人づくりをねらう改悪教育基本法具体化の第1弾にほかなりません。したがって、重要なことは、全国一斉学力テストの中止を求めるとりくみを、教育改悪3法案の廃案を目指すとりくみ、憲法9条改悪反対、今国会における改憲手続き法案の廃案を目指すとりくみの中に位置づけ、すすめることです。
全力をあげ、力を合わせて子どもと教育を守りましょう。