『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年10月号 9月20日発行〉

【特集】教職員の長時間労働と「中教審答申」を問う

  • 全教共済
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教育改悪3法案反対!子どもと教育の未来をひらく6・1中央集会を開催! 諸悪法阻止のたたかいと結んで国民の世論を大きく!【連帯あいさつ②】

【連帯あいさつ②】梅原 利夫 和光大学教授
 みなさんこんばんは。
 教育学研究の成果によれば、教育にとって重要なことは、子どもと学習者にもっとも近くにいるもの、すなわち教師、親、教育関係者が子どもの最善の利益とは何かを自分たちの頭で考え、見つけ出し、自主的に力を合わせて働きかけることであると言えます。しかし、今の政府や文科省は、このような姿勢とはまったく反対のことをやっていると言わざるを得ません。3つの事実で考えてみたいと思います。
 
 4月に全国一斉学力テストが行われました。子どもたちの多くの反応は、「一体なんのためにこんなテストをやらされているの?」というものでした。この問いへのまともな答えはありませんでした。子どもたちに難しい問題をさせておきながら、その後の質問調査では、「今日の問題どうでしたか?次の中から選んでください」などという調査をし、私の聞いた子どもは、「ウザったかった」「ウザったい問題だった」と言っています。テストによって点数化され、子どもがランク付けられ、果てしなくランクを助長する競争にのめり込まされようとしています。それは子どもにとどまらず、担任の先生、学校、その学校のある地域そのものがランク付けさせられ、さらなる競争に追い込まれる――私はこれを「学力テスト体制」と言いたいと思うのですが――それに飲み込まれるテストが行われました。
 
 また、現在国会で審議されている教育3法はどうでしょうか。学校教育目標の中に、先の教育基本法改悪のねらいを受けて、「公共の精神」や「愛国心」――こういうものが学校教育目標の中に掲げられました。目標に掲げられたということは、この目標の実現を学校現場や教師に強制し、その実現を点検評価し、さらに実行をうながす。法律の体制によってその目標の実現をねらおうとしています。
 また、学校は先生方の信頼と先生方の合意によって、校長が選ばれ、そして校長と先生方の協力によって学校運営がされることが望ましいやり方だと思います。しかしながら、今回の3法案では、学校の中に校長、副校長、教頭、主幹、指導教諭、そしてやっと一般の教諭という6種類もの階層を設け、あまつさえ給与の差をもって、先生方を差別しようとしています。このような教育3法を研究者の立場からどうしても許すことはできません。
 
 また、本日提出された教育再生会議の報告はどうでしょうか。この報告では、本来「人間像」と言うべきところがすべて「人材」とされています。つまり、教育再生会議にとっては、グローバルな大競争時代を勝ち抜くための材料としてしか人間を見ていない。こういう態度が現れています。「再生」とは死にかけているものを生き返らせるものです。彼らにとって死にかけているものとは、国家が求める学力と規範意識の2つです。しかしながら、学力テストで見たような問題。さらには、いま文科相が言っているような規範意識というのは、私たちが子どもたちに期待する規範意識とは違うと思います。
 実際に、教育再生会議はこのように提言を出せば出すほど、私たちの教育の願いと違うことを提言し、また、教育の現場に新たな困難を生み出していると思います。これは教育再生会議とは言えず、私は「教育困難再生産会議」と言わざるを得ないと思います。
 
 なぜ、こんなにも私たちの教育を苦しめているのでしょうか。2つの点で教育を考える前提が間違っているのです。そのことを強調したいと思います。
 1つの間違いは、「子どもや教師は、外から注入し、賞罰で育つ」という人間観に立っていることです。本来、人間や子どもは人間の内側にある――「伸びたい」「発達したい」「子どもたちをまっとうに育てたい」という要求にもとづいて、それらが大事にされ、それらを増やす方向で子どもたちの教育が、あるいは先生方の教育が行われるべきところであります。しかしながら、道徳の強制、いじめや少年法に見られる厳罰主義、早寝早起き朝ごはん運動の機械的推進など、すべて人間は外から注入して何かつくりあげるという人間観に立っています。これは教育学研究から言うと、まったく間違った人間観と言わざるを得ません。
 2つ目には、相手を蹴落として自分が這い上がる競争――これを排他的競争と言います――この排他的競争こそが教育を活性化させるという立場に立っています。したがって、「勝ち組」や「負け組」という言葉、あるいは点数化によるランキング、こういうものによって教育を活性化させようとしています。しかし本来、学びというものは互いに教え合い、学び合い、ともに育ち合っていく協力、共同の人間関係の中で、真の教育というものが行われるのではないでしょうか。
 みなさん。この2つの教育についての間違った認識について、法律が作られたり、提言が出されたり、施策が行われているからこそ、いまの私たちの苦しみや困難というものが生まれているのだと思います。私は今回の教育3法案をはじめとして、これら私たちの困難を生み出す教育の元凶に立ち向かっていかなければならないと思います。
 私たちは法律の成立に反対するだけでなく、日常の教育実践の中でこれら誤った考え方を克服する実践をすすめていかなければならないと思います。私たちの教育実践は創意工夫を重ね、したたかにそしてたしかな足取りですすめていきたいと思います。私たちの実践をさらにさらに推しすすめようではありませんか。
 私の発言を終わります。ありがとうございました。

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