『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年11月号 10月20日発行〉

【特集】ともに歩もう! ジェンダー平等と教育の世界へ

  • 全教共済
オピニオン

【談話】2010年度の「全国一斉学力テスト」に関する実施要領の公表について

                                 全日本教職員組合
                                     教育文化局長 今谷 賢二

1.文部科学省は、年度末ぎりぎりの12月28日、2010年度における「全国一斉学力テスト」(=「全国学力・学習状況調査」)の実施要領を公表するとともに、同日、都道府県教育委員会などに実施要領にかかわる通知を発出しました。今回の実施要領の最大の特徴は、すべての小学校6年生、中学校3年生を対象とする「悉皆調査」として行われてきたものを、30%程度の「抽出調査」に切り替えている点にあります。強行実施から3年、「悉皆調査」に対する国民的な批判の高まりを受けて、「抽出調査」への変更を余儀なくされたのは、全教をはじめとする幅広い運動の貴重な到達です。
2.「全国一斉学力テスト」は、改悪教育基本法の具体化として、教育振興基本計画に盛り込まれ、競争的な教育をいっそう強めるねらいをもって実施されてきました。文部科学省は、「測定できるのは学力の特定一部である」「学校における教育活動の一側面に過ぎない」(文部科学省・実施要領)としながら、都道府県ごとの平均正答率を公表し、「○○県が全国△位」などの論調につながっています。知事主導による市町村の平均点公表などの動きも広がり、競争的な教育をいっそう加速させる役割を果たしてきました。また、こうした動きも背景に、「学力テストの点数を上げること」が、教育活動の重要課題のように取り扱われる状況も残念ながら全国に広がっています。今回の「抽出調査への移行」を契機に、学力テストにしばられた教育の在り方を根本的に見直すことが必要です。
 
3.制度的に「抽出調査」に移行させる一方、抽出率は概算要求時の40%から引き下げられたとはいえ、全国平均31.6%と依然として高い抽出率とされています。しかも、学校単位の抽出に変更し、「各都道府県の平均正答率が誤差1%以内となるよう、都道府県ごとに抽出率を設定」とされたために、県によっては7割を超える学校が抽出対象とされ、さらに教育行政を通じた「希望の押しつけ」によって限りなく「悉皆調査」に近い状況さえ生まれようとしています。高い抽出率を維持したままで「抽出作業」が文部科学省に一本化されたことに伴い、「実施するかしないかは市町村教委の判断」とされてきた昨年度よりも、「国による学力テストの実施」の色合いをより濃くしていることも重大な問題です。また、結果公表などの取り扱いもあいまいなままであり、その責任を「学校設置者の判断」に丸投げする姿勢は許されるものではありません。
 
4.さらに、実施要領では、引き続き、「抽出対象校以外でも学校設置者の判断で参加可能」とする仕組みが残されました。文部科学省は、すでに「抽出対象外になった場合に参加を希望するか」と地教委に迫る異常な調査を全国に発出し、各地で厳しい批判を受けましたが、限りなく「悉皆調査」に近い形での実施にこだわる対応を続けているといわなければなりません。しかも、「希望利用」とした場合には、「採点、集計等は、設置者が自らの責任と費用負担で行う」とされており、国の予算減額のしわ寄せを地方に転化することを意味します。少なくとも抽出対象校に限定した調査として実施すべきです。都道府県教育委員会や学校設置者によって、「抽出対象外でも参加」が押しつけられるようなことはあってはなりません。
 
5.悉皆調査の中止は、安倍内閣のもとで押しつけられた「競争の教育」策に対する国民世論の批判を背景にしたものです。全教は、抽出調査に変更された経緯を踏まえ、全国一斉学力テストの中止を要求します。当面、①最小限の抽出調査として実施すること、②そのためにも対象校以外への希望押しつけをやめること、③何よりも、「過去問題の反復練習の押しつけ」など学力テストにしばられた教育のゆがみを正すことなどが重点課題となります。全国での奮闘を心から呼びかけます。
 
以  上
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