『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

【特集】登校拒否・不登校から見える景色――安心できる居場所がほしい

  • 全教共済
オピニオン

【談話】『「悉皆調査」の必要はありません。あらためて、全国一斉学力テストの中止を求めます』

               2009年 8月27日 全日本教職員組合 教育文化局長 今谷 賢二

1.文部科学省は、8月27日、今年度の全国学力・学習状況調査(以下、「全国一斉学力テスト」)の結果を公表しました。今年も、各都道府県別の正答率をあわせて公表しています。すでに、この都道府県別公表によって、「○○県が全国△位」など、学力テストによる競争をあおる風潮が広がっており、この動きをさらに助長する危険性を指摘せざるを得ません。なかでも、今年は8月13日に大阪府教委が、2007・2008年度に実施された全国一斉学力テストの結果について、情報公開請求に応じる形で市町村別結果の公表を行った直後であり、その影響が懸念されます。この動きによって、「過度の競争的な教育」(国連・子どもの権利委員会による日本政府への勧告)をさらにすすめるためにこの全国一斉学力テストが使われる事態がつくられてはなりません。情報公開審査会などの答申もあって、市町村別結果の公表などの動きが広がるのであれば、子どもたちと教育への悪影響を避けるためには、学力テストの実施そのものを中止するしかありません。

2.今回の結果公表にかかわっても、いくつもの重大な問題点を指摘しなければなりません。それは、第1に、わざわざ「悉皆調査」として実施する必要性がないことがますます明らかになることです。調査結果では「算数・数学の問題のとき方がわからないとき、あきらめずにいろいろな方法を考える児童生徒、算数・数学の授業で、公式や決まりのわけ(根拠)を理解しようとする児童生徒の方が、正答率が高い傾向」などと述べられていますが、日頃から子どもたちに接している現場教師にとっては、わざわざ悉皆調査の結果で分析してもらう必要のないものです。しかも、この分析は昨年と同様のものです。このような結果を導くために、57億円もの巨額の費用をかける必要はありません。第2に、「朝食を毎日食べる児童生徒の方が、正答率が高い」など文部科学省がすすめる施策にかかわる分析が各所に見られることです。この傾向は、教科に関する調査ではさらに顕著です。「『活用』は、平均正答率がおおむね50%台であり、全般的に課題がある」とされていることに象徴されるように、基礎・基本、活用、態度を「学力の要素」と位置づけ、改訂学習指導要領の柱として「活用力」を強調している方向に、子どもたちの学力を誘導する意図を持っていると言わなければなりません。子どもたちが身につける学力はもっと豊かなものであり、文部科学省が実施する全国一斉学力テストによって規制されるものではないことは、8月23日まで開催された「教育のつどい2009」に全国から寄せられたレポートからも明らかです。「朝食を…」というのであれば、貧困と格差の広がりのもとで子どもと教育にその影響が及んでいることが社会問題化している今こそ、教育行政が何をすべきか、真剣に検討すべきです。
 
3.全教は、「全国一斉学力テスト」が実際の学校と教育、子どもたちに影響を与えている事実の把握をめざした全国アンケートを実施し、6月に公表しています。全国からの回答では、「前日夜7時までできない子を集め、補習した学校があった」(関東地方)、「修学旅行と重なったため帰校後に実施した。新聞発表のあとだったので、答えの記号を覚えてきた生徒もいた」(関東地域)、「昨年の問題を見せたり、解くコツを教えたりした」(近畿地方)、「不登校で午後からしか登校できない生徒がいるが、その子は質問用紙しか回答できない。『この子を来させない方法はないのか』と管理職が言っていた」(中国地方)など教育とは無縁の姿が告発されています。これらの事実は、学力テストとその結果公表がもたらす非教育的な姿の反映です。子どもたちの心を傷つけ、教育の営みを壊す全国一斉学力テストに固執する文部科学省の責任は重大です。
 
4.全教は、こうした非教育的な「全国一斉学力テスト」に反対し、子どもの権利・教育・文化全国センターに結集して、「子どもを苦しめる『全国学力・学習状況調査』を中止し、国の責任で30人学級実施などの条件整備を求めます」とのアピール賛同署名などにとりくんできました。小森陽一・東京大学大学院教授など7氏の共同によるアピールには、全国の父母、教職員のみなさんが積極的に賛同の声を寄せ、4月15日、729日の2回にわたって文部科学省に提出され、その総計は6952人に達しています。父母・国民、教職員の声を正面から受け止め、今こそ、全国いっせい学力テストを中止する決断を強く求めます。

                                              以上
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