2009年 3月12日 全日本教職員組合 障教部部長 杉浦 洋一
1.2003年7月にはじまる、東京都立七生養護学校(当時)の教育内容に対する都議、都教委、産経新聞社などによる不当な介入・支配に対し、29人の教員と2人の保護者が原告となった裁判「こころとからだの学習裁判」(略称、「ここから裁判」)の判決が、3月12日、東京地裁民事第24部において出されました。
2.判決は次のような点で画期的なものとなりました。
①「政治家である(3人の)被告都議らがその政治的な主義、信条に基づき、本件養護学校の性教育に介入・干渉するものであり、本件養護学校における教育の自主性を阻害しこれを歪める危険のある行為として、旧教基法10条1項の『不当な支配』に当たる」
②「被告都議らの視察に同行した被告都教委の職員らには、このような被告都議らによる『不当な支配』から本件養護学校の個々の教員を保護する義務があった」「被告都教委は、上記保護義務に違反したものである」
3原告らに対する厳重注意の理由とされた授業が、「児童生徒の発達段階を踏まえないものであることが明らかであったとはいえず」「性教育は、教授法に関する研究の歴史も浅く、創意工夫を重ねながら、実践事例が蓄積されて教授法が発展していく面があり」「いったん、性教育の内容が不適切であるとして教員に対する制裁的取扱いがされれば、それらの教員を萎縮させ、創意工夫による教育実践の開発がされなくなり、性教育の発展が阻害されることにもなりかねない」
④原告教員らに対して厳重注意をしたなどの、「被告都教委の行為は、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したものとして、国家賠償法上違法」
3.この判決は、石原都政がこの間すすめてきた乱暴な教育への介入を、司法として断罪するものです。同時に、教育への不当な介入・支配とたたかい子どもと教育を守り続けている教職員、父母、関係者を励ますものです。全教は、都教委がこの判決を真摯に受け止め、これまでの教育政策を見直すことを求めます。また都議、都教委らが控訴することなく、この判決に従うことを要求します。
七生養護学校への教育介入・教職員攻撃は、都教委の乱暴な教育介入や障害児教育大リストラを推進するための見せしめとしての意図を持って行われました。
旧教基法10条1項の内容は、日本も批准しているILO・ユネスコ「教員の地位勧告」第63項、第67項にもあたる国際的基準でもあり、教基法が改悪された今日でも今なお生命力を持つものです。また、創意工夫による教育実践の大切さは、障害児教育はもとより、教育全般に言えるものです。全教は、日本の教育行政に対してもこの視点の堅持を求めます。
今回の判決は、一部で原告の訴えを退けたものの、乱暴な教育介入を断罪し、教育の条理に立った教育の創造と、学問の自由・創意・責任にもとづく教員の専門性の確立をすすめるとりくみの武器ともなる画期的なものです。全教は、全国の教育関係者がこの判決を生かし、子どもたちが大切にされる教育を推進するために力を合わせることを呼びかけます。