2009年 3月12日
全日本教職員組合
日本高等学校教職員組合
全国私立学校教職員組合連合
■ 緊急提言の発表にあたって
私たち全教・日高教・全国私教連の3教職員組合は、3月8日・9日の2日間、諸団体や専門家の協力を得て、「入学金・授業料・教育費ホットライン」による電話相談を行いました。
このとりくみは、急激な景気悪化によって多数の労働者が職を失い、あるいは経営を破壊されることによって父母・国民が生活破壊に見舞われる状況で、子どもたちの就修学と進路を守る緊急行動の一環として行ったものです。
ホットラインでは電話相談が絶え間なく続き、非常に深刻で緊急性の高い相談・訴えが多数寄せられました。数日後に迫った授業料納入期限を前に、途方にくれる私立学校の保護者の相談も多数ありました。私たちの予想をはるかに超えて、卒業・入学・進級という節目の季節を迎えて、子どもたちの就修学をめぐる状況はきわめて憂慮すべき事態であることが明らかになりました。
教育費をめぐる困難の背景には、急激な景気の悪化の中で、保護者が職を失ったり、営業が破壊されたりしていることがあります。国民の雇用と営業を守るために、企業がその社会的責任を果たすとともに、国や自治体は、国民の雇用と営業を守り、子どもたちの就修学が守られるよう、全力をあげることを求めます。
同時に、日本の異常な高学費と教育費負担の重さは、もはや限界を超え、一刻も猶予ならない事態になっています。根底には、「国際人権A規約」第13条2項(b)(c)の批准を留保し、「受益者負担主義」をとる国の政策があります。この政策を根本的に転換しない限り、教育費のことでつらい思いする子をなくすことはできません。
私たちは、とくに3月末の年度末を目の前にして、教育費に苦しむ子どもや保護者への緊急の支援体制をとることが急務と考え、この「緊急提言」を発表しました。文部科学省、厚生労働省をはじめとした政府機関、地方自治体、教育機関などの関係諸機関が、早急に具体的な支援策をとるよう強く求めます。
同時に、私たち教職員組合も、子どもや父母の苦難を少しでも和らげるため、その社会的使命を果たすべく、全力をあげてとりくむ決意を表明するものです。
■ 「緊急提言」の柱
○緊急提言1
すべての都道府県・市町村で、入学金・授業料などが払えず困っている保護者のために、無利子・無保証人の緊急融資制度をつくることを求めます。
○緊急提言2
現在実施されている就修学援助制度の周知徹底をはかるとともに、3月末を目前に、卒業・入学・進級時の教育費負担に苦しんでいる児童・生徒・保護者が、今すぐ活用できるよう、緊急受付の実施と現行制度の拡充をはかるよう求めます。
○緊急提言3
自治体に、保護者の失業・倒産等による経済的困難に対する緊急の就修学支援制度の創設を求めます。そのために、国は財源確保と指導力発揮に全力をあげるよう求めます。
○緊急提言4
全国の都道府県庁、行政機関、学校に教育費のことが相談できる「相談窓口」を設け、緊急の相談に対応できる体制をつくるよう求めます。
○すべての学校関係者のみなさんへの呼びかけ
「教育費でつらい思いをする子」を一人も出さないために、学校関係者による最大限の努力をつくしましょう。
■ 緊急提言1
すべての都道府県・市町村で、入学金・授業料などが払えず困っている保護者のために、無利子・無保証人の緊急融資制度をつくることを求めます。
■提言の趣旨
(1)現在、最も急がなくてはならない問題は、この年度末に入学金・授業料が払えず、困っている保護者の苦難に応えることです。そのために、すべての都道府県・市町村で、無利子・無保証人の緊急融資制度をつくることが必要です。
(2)これまでも、日々の営業に苦しむ中小・零細企業向けの無担保・無保証人の緊急融資制度などが実施されてきました。十分実現可能な制度です。実現に向けて、国の強力な指導性の発揮を求めます。
■ 緊急提言2
現在実施されている就修学援助制度の周知徹底をはかるとともに、3月末を目前に、卒業・入学・進級時の教育費負担に苦しんでいる児童・生徒・保護者が今すぐ活用できるよう、緊急受付の実施と現行制度の拡充をはかるよう求めます。
■提言の趣旨
(1)ホットラインの電話相談では、さまざまな就修学援助制度があるにもかかわらず、それを知らない(知らされていない)事例が多くありました。現行制度の周知徹底があらためて求められます。
(2)同時に、「現在受け付けていないといわれた」「申請に行ったら締め切りが過ぎていた」「以前は受けられたのに今回はダメだった」という事例がありました。援助制度の基準がきびしくなっていることも背景にあります。基準緩和と利用枠の拡大など、制度の拡充が求められます。
(3)3月の年度末を迎えて授業料等の支払いに困っている事例、入学は決まったがその費用のメドが立たないといった事例が見られました。こうした苦難に対応するためには、緊急活用ができるような特別措置が必要です。
(4)授業料減免、授業料助成、奨学金などが受給できることになっても、支給が数ヶ月先になることから、当座の入学金・授業料が工面できずに苦しんでいる保護者がいます。そうした保護者のために、入学金・授業料納入の猶予制度をつくることが必要です。
■具体的提案
1.現在実施されている生活支援も含めた就修学援助制度について、行政・学校は、児童・生徒・保護者に知らせ、周知徹底をはかる。
(1)義務制諸学校で実施されている就学援助制度
(2)公立高等学校で実施されている授業料減免制度
(3)私立学校で実施されている授業料助成制度
(4)公的奨学金制度(各都道府県、日本学生支援機構が実施している奨学金制度)
(5)生活保護制度と関連する教育扶助制度
(6)生活資金貸付制度(修学資金など)
2.上記の制度について、年度末の緊急受付を実施すること。
3.緊急事態に対応できるよう、現在実施されている制度の拡充をはかる。
(1)生活保護基準の1.5倍程度まで認めるなど、就学援助制度の基準緩和と利用枠の拡大
(2)生活保護基準の1.5倍程度まで認めるなど、授業料減免制度の基準緩和、利用枠の拡大
(3)私立学校の授業料助成制度を拡充するため、都道府県への国の緊急助成の拡大
(4)生活資金貸付制度の利用枠の拡大
4.授業料減免、授業料助成、奨学金などが受給が決定した場合は、授業料等の納入を猶予する制度を導入するよう、文部科学省が必要な通知を出す。
■ 緊急提言3
自治体に、保護者の失業・倒産等による経済的困難に対する緊急の就修学支援制度の創設を求めます。そのために、国は財源確保と指導力発揮に全力をあげるよう求めます。
■提言の趣旨
(1)卒業・入学・進級時の問題に対応するとともに、中期的には、抜本的な対策が求められます。とりわけ、保護者の失業・失職、倒産等による生活破壊に対して、現行制度の不十分なところを補うための就修学支援制度が必要です。
(2)昨年来の雇用情勢の急激な悪化の中で、不十分ながらも、雇用確保のための予算確保がすすめられています。そうした予算を活用して、緊急支援制度の創設を求めます。
■具体的提案
1.各自治体は、保護者の失業・倒産等による教育費問題に対する新たな緊急就修学支援制度を創設する。
例示:(1)京都府の「高校生等修学支援事業」(修学資金貸与事業、通学費補助、緊急修学支援奨学金、授業料減免特例措置)
例示:(2)佐賀市の入学金等助成金支給制度
2.就学援助制度のうち、準要保護家庭に対する就学援助の国庫補助を復活させ、国の責任を明確にする。
3.私立大学生に対する緊急支援制度を創設するとともに、国公立大学の学費免除制度を拡充する。
4.文部科学省は、関係各省庁との連携を強化し、財源確保をすすめるとともに、指導力を発揮する。
(1)財源の例示
○「ふるさと雇用再生特別交付金」 2次補正予算、2500億円
○「緊急雇用創出対策交付金」 2次補正予算、1600億円
○「地域活性化生活対策臨時交付金」 2次補正予算、6000億円
○「地方交付税・地域雇用創出推進費」 2009年度予算、5000億円
(2)2009年度予算の補正予算においても、雇用対策と就修学援助の対策予算を拡充する。
■ 緊急提言4
全国の都道府県庁、行政機関、学校に教育費のことが相談できる「相談窓口」を設け、緊急の相談に対応できる体制をつくるよう求めます。
■提言の趣旨
(1)電話相談の中では、「学校に相談していない」「どこに相談したらいいかわからない」などの声が多く聞かれました。学校や行政機関がセーフティネットの役割を十分発揮していない現状が明らかになりました。
(2)「教育費のことで困ったときは、まず学校に相談する」が当たり前になるようにすることが重要ではないかと考えます。
■具体的提案
1.すべての都道府県庁、教育委員会、教育事務所、市町村の役所、社会福祉協議会などの行政施設等に「教育費相談窓口」を設置し、関係諸機関との連携をはかる。
2.すべての学校に「教育費相談窓口」を設置し、いつでも相談できる体制をつくる。こうした体制確立がはかれるよう、行政による学校への支援を強化する。
3.就修学援助制度等についての広報を積極的に行う。とくに新入学生には積極的に知らせるよう、とりくみを強化する。
■ すべての学校関係者のみなさんへの呼びかけ
「教育費でつらい思いをする子」を一人も出さないために、学校関係者による最大限の努力をつくしましょう!
■呼びかけの趣旨
いま、全国の学校は、年度末の仕事と新年度に向けての準備に追われる、最も多忙な時期を迎えています。同時に、子どもや保護者が就修学に不安をかかえる時期でもあります。こういう時期だからこそ、全国の学校関係者のみなさんに、子どもたちの目線に立って、就修学の問題にとりくむよう呼びかけます。
みなさんの教室に、教育費のことで人知れず困っている子どもはいませんか。相談したくても、どこに相談したらいいかわからずに困っている保護者はいませんか。利用できる制度があるにもかかわらず、利用をためらっている保護者、制度を知らない保護者はいないでしょうか。
学校関係者は、だれもが子どもたちの健やかな成長を願っています。そのために、安心して学校に行けるよう、最大の努力を払っています。卒業・入学・進級で教育費の不安が高まるこの時期に、各学校で次のようなとりくみを強めていただくよう呼びかけます。
(1)教育費のことで困っている子どもや保護者がいないか、教職員みんなで話し合う時間を持ちましょう。
(2)教育費で困った時に利用できる制度を、保護者のみなさんに知らせましょう。卒業式、入学式、終業式、始業式などの機会に、「困ったときは、一人で悩まずに、ぜひ学校に相談してください」と呼びかけましょう。
(3)教育委員会等の関係機関と連携して、就修学を支援する制度の拡充にとりくみましょう。
学校は、すべての児童・生徒の安心のよりどころです。「お金がないから学校に行けない」と悲しむ子、「お父さん、お母さんがお金のことで困っている」と心を痛める子を一人もつくらないよう、社会の役割と責任が問われています。今こそ、その役割と責任を発揮しようではありませんか。