『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年11月号 10月20日発行〉

【特集】ともに歩もう! ジェンダー平等と教育の世界へ

  • 全教共済
オピニオン

【見解】『CEART勧告をめぐるとりくみの到達点について~ILO・ユネスコへの訪問を踏まえて~』

                     2009年 3月 3日 全日本教職員組合 中央執行委員会

.全教の東森英男書記長、新堰義昭副委員長、全教弁護団の牛久保秀樹弁護士は、ILO(2月19日)、ユネスコ(同月23日)を訪問しました。通訳を兼ねて、全労連の布施恵輔国際局長が同行しました。これは、ILO・ユネスコ共同専門家委員会(CEART)が、2008年12月8日付で勧告を含む中間報告を全教へ送付した際に、「問題の解決に関連して、その後の前進や継続する困難について貴団体からの追加情報があればそれをできるだけ早期にお送りいただくように」と要請したことに応えたものです。

.全教からの「追加情報」の骨子は次の通りです。
 
(1)CEART調査団が遠路来日され、すべての当事者に受け入れられる「問題の解決のための提案」を行う使命を果たされたことに深い敬意を表します。
 
(2)全教は今回の勧告を、①この間の文部科学省の部分的改善措置を評価しつつも、日本の教育行政が『66年勧告』から逸脱していることを明快に批判し、勧告の適用を促進・監視するCEARTの存在感を内外に示した、②調査団が得た証拠資料を基礎に、具体的な改善内容に踏み込む意欲的な内容で、私たちの期待に応える画期的なもの、と評価しました。
 
(3)全教は、勧告が、協調の精神による「協議と交渉」がなければ、「教育の有意味性と質の向上とを図る教育改革が成功する可能性を損なう」(32項)と述べていることに「強い説得的効果」があると理解しました。
 ところが、ILO理事会において、日本政府代表が、「日本の状況、法律及び政府の講じてきた施策に関する理解が不十分であることに落胆している。中間報告書の記述と勧告の一部を受け入れることは困難である」と述べたことを知り、驚きました。
 
(4)全教は1月19日、文部科学省に対し、「CEART勧告の遵守を求める要請」を行いました。要請に対し文科省は、ILO理事会で意見表明している内容が公式な見解であるとし、CEART勧告及び調査団報告書の政府・文科省訳を公表するつもりもないなどと回答しました。
 このような文部科学省の消極的な対応の背景には、従来からの教職員組合政策とともに、現在、首相官邸を中心に公務員の労働基本権制約の見直しがすすめられており、一省庁で判断できない事情が考えられます。
 
(5)私たちは、昨年12月22日、国家公務員制度改革推進本部に対して、労働協約締結権の付与が検討されている公務員制度改革において、今回のCEART勧告が十分に反映されるよう申し入れました。引き続き、ILO勧告、CEART勧告を力に、公立学校で働く教職員を含む公務員の労働基本権回復にむけ全力を尽くす決意です。
 
(6)全教は、画期的な今回のCEART勧告を、都道府県教育委員会はもちろんのこと、すべての教育委員会に普及する運動を開始しました。また、組合員の学習運動にも着手しました。このとりくみの状況と結果は、別途報告します。
 
.ILO、ユネスコともに全教の訪問を歓迎してくれました。ILO側の応対者は、調査団メンバーとして来日した、スティーブン・オーツ氏、ビル・ラットリー氏でした。
 「追加情報を届けてくれたことに感謝する」と述べ、「情報はCEART委員全体に伝えられる。今年の9月か、10月にパリで開催されるCEARTの定期会議には、中間報告、調査団報告、追加情報すべてを提出する」と説明しました。また、「勧告を全教が真摯に受け止めてくれたことを評価する」「報告、勧告が、皆さんの状況にフィットしており、大変喜ばしく思う」「動きは複雑になるだろうが、日本だけの問題ではない。満足のいく解決をめざしたい」と答えました。そして、重要な情報は、「教員の地位勧告」(66年)の「共同注釈」(84年)の改訂作業をすすめており、「今年の5~6月には完成したい。長引いてきたのは、今回の調査、報告の内容を反映させるためである」と表明されたことです。
 
 また、「勧告が出てから変化はあったか」「他の教職員組合の動向は」「公務員制度改革の見通しは」「CEARTからの援助で希望していることは何か」「世界的な経済危機のもとで、教育への影響は」などの質問が相次ぎ、有意義な話し合いとなりました。
 
.ユネスコ側の応対者は、来日したポンテフラクト氏が異動となったため、セドー高等教育局長(教員養成)、ルシオ高等教育専門官でした。
 全教は、今回の勧告文を作成するに当たってユネスコが貢献したと注目して点として、現職教員の役割の重要性(12項)、協議・交渉がなければ、教育の有意味性と質の高い教育改革は成功しない(32項)、同僚性と専門職的協働という周知の日本的特質に依拠して見直しを(34項)などの3点をあげました。
 セドー局長は、全教の報告を共感をもって受け止め、「全教のとりくみに感謝したい」と述べました。そした、「日本での調査活動は、制限なくすべての人と会うことができ、高く評価されている」「勧告は充実しているが、唯一の不安は、遵守されるかどうかである。勧告は、当事者を対立させようとするのではなく、協調し努力するべきガイダンスとして提起されている。対話と交渉には、時間が必要である」と激励しました。
 ルシオ氏は、「2003年9月に全教の訪問を受けた。資料も全て保管している。『教員の地位勧告』」適用のとりくみで、全教は重要な一角を担って活動をしている」と述べました。

.今回はじめて、ILOの労働者活動局(ACTRAV)への要請を行い、ダン・クニア局長などが応対しました。全教は、CEART勧告に向けての尽力に謝意を述べるとともに、今後の援助を要請しました。
 ダン・クニア局長は、「CEART勧告のメカニズムは、対話を促進するための基準の提起である」「大事なことは、アジアの先進国である日本の問題点が明らかにされたことだ」「勧告文は技術的でわかりづらいので、国民にわかりやすく伝達することに習熟してほしい」「どの国でも、教師の労働条件は高いとして国民と分断する動きがあるので、その前提でとりくんでもらいたい」など有益なアドバイスがありました。「教員の国際組織であるEIもこの問題を重視している。ITUC(国際労働組合総連合)も日本の公務員制度改革に関心を持っている。日本政府は頑なで簡単にはいかない。打ち破るには連携が大事」と述べ、中嶋滋ILO労働側理事へ援助を要請するよう求めました。
 
.全教は、教員の地位低下や差別賃金は新自由主義的な「教育改革」を導入している各国の共通した傾向であり、今回のCEART勧告が世界に発信されれば、その攻撃とたたかっている諸外国の教職員組合の「指針」ともなると表明してきましたが、このことが確認できるILO・ユネスコ訪問でした。子どもと教育のために、「教員の地位勧告」が遵守されるよう、全教は、引き続き、国際シンポの開催をはじめ勧告の学習・普及、教職員組合の共同をめざし奮闘するものです。

                                              以上
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