『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

【特集】登校拒否・不登校から見える景色――安心できる居場所がほしい

  • 全教共済
オピニオン

【アピール】『父母・国民、教職員のみなさん 憲法を生かし、子どものすこやかな成長をはぐくむ教育を、力をあわせてすすめましょう』

父母・国民、教職員のみなさん 憲法を生かし、子どものすこやかな成長をはぐくむ教育を、力をあわせてすすめましょう


 8月21日から24日までの4日間、京都で開催した「教育のつどい2008」は、全国から集まった多くの父母・市民、教職員、子どもたちの参加で大きく成功しました。「教育のつどい2008」の開催のために、大きな力を寄せていただいた京都府民・市民のみなさんに心から感謝の気持ちを表明します。
 
 「教育のつどい2008」のもっとも大きな特徴は、高校生など子どもたち自身の意見表明や報告も含め、父母・教職員、市民がいっしょに、子どものことを大いに語りあったことです。分科会で、生徒会のとりくみを教師とともに報告した定時制の高校生は、「小学校2年生から中学3年まで学校に行かなかったぼくが変わった大きな一つは、この学校に入ったことです」と話しました。さまざまな困難を抱える子どもたちも学校づくりに参加する中で、見違えるように成長・発達するという姿に、私たちは、あらためて、子どもたちの素晴らしさを共有し合うことができました。
 また、授業中立ち歩いたり、大声をあげたりする子どもたちとの対応でへとへとになりながらも、「子どもの行動には必ず理由がある。大人もふくめてつながりにくい相手とこそ、キャパを広げて歩み寄らなくては」と、父母に率直に子どもの実態を話し、父母の「よく言ってくれた、私たちにできることがあれば協力させてください」という言葉に励まされながら、子どもの成長のために、父母と力を合わせてとりくんだ教師の報告がありました。ここから、子どものすこやかな成長を助けるためには、教師も率直に悩みを出し、父母と共有し、子どものために力を出し合ってとりくみをすすめることの大切さを学び合うことができました。参加と共同の学校づくりの方向でこそ、子どもと教育の困難をのりこえることができることを確かめ合うことができました。
 重要なことは、こうした参加と共同の教育・学校づくりが、青年教職員に継承され、発展してきていることです。今回の「教育のつどい」では、若い教職員の積極的な参加と発言がありました。その青年教職員たちがさまざまな屈折した姿を見せる子どもたちとの対応にとまどいながらも、真正面から子どもと向き合い、子どもの願いを読み解きながら日々教育活動にとりくんでいる事実に、学校づくりの新たな展望を見出すことができました
 開会全体集会での青年によるロック・ソーランは、青年の持つあふれるエネルギーを余すところなく示しました。
 「教育のつどい2008」の討論が、子どもや教職員の困難を語りながらも、大変明るいトーンで展開されたことは、こうした子どもや青年の姿が、明日の教育の展望を指し示しているからにほかなりません。
 
 「貧困と格差拡大」が子どもと教育にどのような影響を与えており、それに対して大人たちは何ができるのかも、大きなテーマとして語り合われました。分科会討論では、子どもたちの「荒れ」といわれる事態もふくめたさまざまな困難の背景に、貧困問題がよこたわっていることが、さまざまに語り合われました。また、地元京都の父母や教職員でつくる実行委員会が企画した、この問題を中心テーマとしたシンポジウムでは、医療、生活保護、児童相談、教育の仕事にかかわる人々から、リアルな実態がこもごも語られました。「生活が苦しくて、一日一食が精一杯で、子どもがやせてきた。母親のわたし自身も働けない」「小学生のある男の子は、学校に行きたがらず、給食を食べさせるために担任が昼前に家に迎えに来る。このときの母親の所持金は400円だった」シンポジウムでは、こうした実態が浮き彫りにされるとともに、「今の子どものくらし、学習の困難は日本の政治・経済の問題そのもの。異なる立場の専門家の共同、ネットワークづくりがどうしても必要。ひとりの子どもも見捨てない支援体制をつくろう」という大切な呼びかけがなされました。貧困と格差拡大から子どもを守るための、つながりづくりの大切さを学び合い、大事な一歩を踏み出すことができました。
 この問題ともかかわって、子どもたちに生きることの意味、働くことの意味を考えさせるとりくみが、教科、教科外の活動をとおして前進していることも大きな特徴です。高校生のアルバイト調査を入り口に、労働基本権、憲法を学んだとりくみが報告されました。この学習をとおし、自分が最低賃金以下で働かされていることを知ったある高校生は、同じ職場で働く正社員に話し、その正社員が店長と交渉して、待遇の改善を勝ちとりました。これは、高校生自身が主権者として憲法を生かしていく姿であり、憲法学習を憲法の条文の学習だけに終わらせず、子どもたちが、憲法を自らの問題に引き寄せて考えるという教育実践のあり方としても、新しい前進方向をきりひらくものです。
 
 改訂学習指導要領の問題は、すべての分科会で討論の柱にすえられました。そして、子どもたちが豊かな学力を身につけるためには、どのような教育内容や指導方法が求められるのか、などについて、全国から集まったレポートをもとに、真剣な研究、討論がすすめられました。また、教育フォーラムでは、改訂学習指導要領を集中的に討論する場も設けられました。これらの研究・討論によって、子どもたちが学力を身につけることを困難にする改訂学習指導要領の問題点が浮き彫りにされるとともに、教職員が合意をつくり、力をあわせ、父母・住民の意見を生かして教育課程(学校がすすめる教育活動の全体計画)をつくる実際のとりくみも大いに交流されました。これらをとおして、学校がすすめる教育活動の全体計画は、文部科学省が決めて押しつけるのではなく、一つひとつの学校からつくるものだということを確かめ合うことができました。
 
 こうした子どものすこやかな成長をはぐくむ教育活動をすすめていく根底に憲法があり、憲法を教育に、くらしに生かしていくことの大切さを確かめ合ったことも重要な成果です。「九条の会」呼びかけ人の井上ひさしさんのお話から、憲法が日本だけではなく、世界の平和のためにどれだけ大事な役割を果たしているのかを学ぶことができました。また、「平和というのは、戦争がないという状態だけを言うのではなく、将来に希望があることを平和という」ということも学び合いました。私たちは「教育のつどい2008」で「子どもたちとともに平和の文化を」というテーマを掲げましたが、それは、子どもたちとともに未来への希望をつくりあげようという意味合いを持つこともあらためて確かめ合うことができました。
 
 「教育のつどい2008」は、今日、幕を閉じます。京都は日本で最初に小学校が京町衆の手によってつくられた街であると聞きました。私たちは、この4日間、歴史と文化の街、そして教育においても進取の気風にあふれる街、京都の地で、深く、豊かに学び合えたことを大変幸せに思います。あたたかなご協力をいただいたことに、重ねて感謝申し上げます。私たちは、学んだことを全国各地に持ち帰り、子育て・教育に生かします。そして、それを学校と地域に広げます。
 全国の父母・国民、教職員のみなさん、平和を大切に、憲法の精神にもとづき、子どもの権利条約を生かした教育を力を合わせてつくりあげようではありませんか。心から呼びかけます。
 
2008年 8月24日
 

                   「みんなで21世紀の未来をひらく教育のつどい――教育研究全国集会2008」実行委員会
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