『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

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  • 全教共済
オピニオン

【見解】『ILO・ユネスコ調査団のヒアリングを終えて』

                     2008年 4月30日 全日本教職員組合 中央執行委員会

1.「指導力不足教員」人事管理や新教職員評価制度などにおいて、ILO・ユネスコ『教員の地位勧告』が遵守されているか実情を調査するため来日していたILO・ユネスコ共同専門家委員会(CEART)調査団は、4月21~28日の調査日程を終えました。受け入れを了承した文部科学省と周到な準備をされたILO駐日代表部に心から敬意を表するものです。


 この間、調査団は、申し立てを行った全教はもちろんのこと、「問題になっている事項に関連するすべての教員団体から情報提供を受ける必要に特に留意」して日教組、全日教連からもヒアリングを実施しました。そして、文科省の「各教育委員会の取組状況等について直接事情を聴取してもらいたい」との要請を受け、東京都教育委員会、大阪府教育委員会、香川県教育委員会を直接訪れてヒアリングを行いました。また、専門家からの意見聴取も行い、勝野正章東大准教授などが意見表明を行いました。
 全教との意見聴取の際、調査団委員長のマーク・トンプソン博士は冒頭に、次のように述べました。「精力的なとりくみをすすめる全教に会えてうれしい。CEARTは創立40周年を迎えるが、調査団派遣の前例がなく、今回の調査はCEARTにとっても大きな出来事だ。CEARTは『教員の地位勧告』の適用を監視しているが、日本政府と全教からお招きをいただいた。日本という国が、『教員の地位勧告』への深い興味・関心を示していることは、賞賛に値する。調査結果を報告書にまとめ、CEARTの委員会に提出する。最終的な取り扱いまで、討議については、すべて非公開である」。
 
2.全教は、調査団が十分な成果がえられるよう、あらかじめ示された11項目の「討議の枠組みに」そった回答書及び詳細な報告書を、全教本部、都教組・都障教組、大教組、香川県教組・高教組がそれぞれ用意してヒアリングに臨みました。また、「指導力不足教員」政策に関する土屋基規近畿大学教授、教職員の勤務実態についての牛久保秀樹弁護士の意見書も手交しました。
 全教及び当該組織は、調査団からの質問に対し、学校現場の実情を踏まえて具体的に回答しました。調査団に全教の訴えが十分に理解されたと思います。
最終日に行われた補充ヒアリングの場で全教は、総括的に、次の3点を主張しました。
 
① 指導不適切教員政策
 文科省は、「ガイドライン」は各教育委員会における人事管理システムの整備・運用の参考とするために情報提供されたものと説明している。したがって私たちは、「ガイドライン」を最低基準として、『教員の地位勧告』の水準を満たす各教育委員会の基準・運用めざして各任命権者レベルで誠実な労使協議を行うことが重要と考える。
② 教職員評価制度
 私たちは、教員の力量向上、職能成長を目的とする評価は重要と考えており、その主体には、管理職だけでなく、同僚などが含まれるべきである。評価の基準と方法は、行政からの一方的な押し付けではなく、教職員組合との協議・合意が重要である。評価結果を給与・処遇に結び付けることは、本来の目的と両立せず、学校の教育力の要であるチームワークを阻害するのでやめるべきである。
③ 交渉・協議
 文科省・教育委員会が、『教員の地位勧告』の指導原則9項が述べるように教職員組合を「教育政策の決定に関与すべき勢力として認め」、教職員評価制度などの「管理運営事項」扱いをやめ、有意義な協議・交渉を行うこと。
 最後に、トンプソン博士は、「全教はあまり大きくない組織と聞いていたが、すばらしい主張の展開、熱意とエネルギーに感心した」と感想を述べました。
 
3.CEART調査団は、精力的に活動を行いました。その調査活動を目の当たりにして、次のことが明らかになりました。
① 調査団は十分な準備をしてヒアリングを行っており、全教と文科省の主張の食い違いがどこにあるのか、実情の把握に真剣にとりくんでいました。
② すでに、CEARTは3度にわたって勧告を行っており、勧告した「善意と適切な対話」が進展しないのはなぜか、『教員の地位勧告』が遵守されていない問題の解決が初歩的部分的改善にとどまっている理由は何か、その障害がどこにあるのか探求していることです。全教と文科省の間、各地方教育委員会レベルの労使間で、「協議・交渉」が行われているのか、単なる「話し合い」なのか、その実態について多くの質問がなされました。
③ 調査団の報告書は11月ごろまでにまとめられることになっていますが、「すべての当事者に受け入れられるもの」を作成したいとの意欲が感じられました。だから、勧告は「強い説得的効果」を有していると考えられます。
 
4.私たちは、CEART調査団の報告書が、「指導力不足教員」人事管理及び新教職員評価制度において勧告が遵守されていない問題の解決に役立つものになると期待するものです。そして、この日本に係わる報告書が世界に発信され、実績給や報奨給制度など新自由主義的な教育政策とたたかっている諸外国の教職員組合にとっても価値あるものになると信じるものです。すでに教職員組合国際組織であるEIなどが動向に関心を寄せています。
 いずれにしても、ILOユネスコ勧告は各国の自発的意思で守られるべきもので、活かすのは私たちの運動です。CEART調査団の来日を契機として、『教員の地位勧告』、CEART勧告に対する関心が高まっています。「競争と管理」によるめまぐるしい「教育改革」が押し付けられ、教育の喜びを失いがちだった東京都の教員は、『教員の地位勧告』の全文を読み、教育者としての自信と誇りを取り戻したと述べています。全教は、学習・普及をさらに強め、競争的管理的な教職員賃金・人事政策の転換をめざして引き続き全力をあげるものです。 
 また、国会には国家公務員法「改正案」が上程されており、公務員の労働基本権のあり方が論議されることになっています。教職員組合と教育委員会の有意義な交渉を実現するためにも、公務員の労働基本権回復は避けて通れない課題であり、このことにも奮闘するものです。

以上
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