2008年 4月 7日 全日本教職員組合 教文局長 山口 隆
中央教育審議会(以下、中教審)は、4月2日、教育振興基本計画特別部会を開催し、「中央教育審議会『教育振興基本計画について(答申案)』」(以下、答申案)をまとめました。
教育振興基本計画について、私たちは、現場からの要望をふまえ、これまで中教審がおこなったヒアリングの場でも、①政府の教育に対する不介入の原則に立つこと、②子どもたちにゆきとどいた教育をすすめるため、子どもの実態、学校の実態をふまえた教育条件整備に限定して、具体的な計画を立案すべき、という2つのことを求めて意見表明をおこなってきました。
しかし、答申案はこれにそむき、2つの重大問題を持つものとなっています。
第1は、改訂学習指導要領実施にもとづく「愛国心」教育といっそうの競争教育推進のための計画となっていることです。
答申案は、「特に重点的に取り組むべき事項」の筆頭に「確かな学力の保証」をあげ、「新学習指導要領の実施」と「学力調査による検証」をあげています。そして、「競争と管理、格差づくり」をすすめる改訂学習指導要領の実施と、その検証・改善サイクルとしての全国一斉学力テストを「継続的に実施する」と述べています。
これは、改訂学習指導要領にもとづくいっそうの競争強化の政策を推進するために、その点検チェックの役割を全国一斉学力テストに担わせて、今後も実行する計画にほかなりません。「管理と競争」の教育政策のもとで苦しむ子どもたちに、いっそうの苦痛を与えるものです。
また、次に「豊かな心とすこやかな体の育成」をあげ、「道徳教育や伝統・文化に関する教育、体力向上に向けた方策、体験活動の推進」をかかげています。その中で、道徳教育ついて特に強調し、道徳教育のための教材について「国庫補助制度を早期に創設する」としています。そのことによって、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」教育をすすめるとしています。
これは、「愛国心」教育推進のための計画にほかならず、教育振興基本計画による学校教育への介入という重大問題を持つものです。
第2は、肝心の教育条件整備については、財政当局の圧力に屈し、何ら具体的な計画となっていないことです。
答申案は、「教育投資」の項で、日本の「公財政教育支出の対GDP比についてはOECD諸国の平均が5.0%であるのに対し我が国は3.5%となっている」と述べながら、教育予算増額については、まったく具体的な計画が示されていません。また、教職員についても、「一人一人の子どもに教職員が向き合う時間を十分に確保」と述べながら、教職員定数増については、まったく具体的な計画が示されていません。それどころか、「現在、国の財政状況は大変厳しい状況にあり…限られた予算を最大限有効に活用する観点から、施策の選択と集中的実施、コスト削減、効果的な実施に努める必要がある」と述べるなど、「コスト削減」の名による教職員削減の方向さえ示しています。そのうえで財源にかかわっては、「企業をはじめとする多様な主体による教育の振興に資する寄附の促進… 社会における寄附文化の醸成」とまで述べる始末です。
なお、学校の耐震化にかかわっては「危険性の高い小中学校等施設(約1万棟)について優先的に耐震化」と述べていますが、これも「支援」の枠組みにとどまり、国としての責任を果たすという姿勢はまったくみられません。
このような、肝心の教育条件整備については、国の責任を放棄し、責任を現場と地方自治体に押しつけるような答申案は、長時間過密労働で苦しむ教育現場はもとより、父母・国民、地方教育行政からもまったく支持を得られないものであることは明らかです。答申案を抜本的に見直し、「愛国心」教育推進をやめ、教育条件整備についての具体的な計画となるよう、強く求めます。