全教は、文科省の求めに応じ、中教審スポーツ・青少年分科会 学校健康・安全部会「子どもの心身の健康を守り、安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について(審議経過報告)」に関する意見を示しました。
2007年12月18日 全日本教職員組合
まず、審議経過報告を読んで、強く感じるのは、「教職員に過度の負担を新たに課すことを意図するものではない」(P4)と述べられているのですが、ここに記述されていることは、学校に対する膨大な要求であるということです。最終答申においては、現場の実態を踏まえたものとなることを強く求めたいと思います。また、後で述べるように、本来学校がすすめるべき教育課程や学校がその実態に応じてつくりあげるべき学校運営体制に踏み込んだ記述も見られます。教育内容や学校運営体制に踏み込むことなく、条件整備に徹するよう、強く求めるものです。
そのうえで、いくつかの点について意見を述べます。
まず、審議経過報告について評価できる点について述べます。審議経過報告は、「学校保健の充実を図るための方策について」では、「養護教諭の複数配置の促進」(P9)に言及していることは、評価するものです。しかし、一方で「経験豊かな退職養護教諭などの知見を活用」(P9)とも述べられています。これを全面的に否定するものではありませんが、これを複数配置とみなすことには問題があると考えます。対等な立場で協力して子どもの問題に対応するためにも、文字どおりの複数配置を強く求めます。
また、「学校における食育の推進を図る方策について」では、栄養教諭の「配置拡大が不可欠」(P22)として「栄養教諭の定数改善を図ることが必要」(P27)と言及していることについても評価するものです。これらについて、最終答申においては、ぜひ、「年次計画と数値目標をあげて改善を図ること」を盛り込んでいただきたいと強く願います。
「学校安全の充実を図るための方策について」では、「学校施設の耐震化を推進する」(P37)と述べている点、さらに「安全上問題のある老朽施設の解消を図る必要がある」(P37)と述べている点については、評価するものです。ただ、「老朽施設の解消」が住民合意のない統廃合によっておこなわれるならば大きな問題であり、純粋に施設設備の改善という角度から記述されることを望むとともに、耐震化については、これも「年次計画を立てて改善を図ること」を盛り込んでいただきたいと思います。
審議経過報告はいたるところで「校内体制を確立」(P4)と述べ、「家庭との連携」「地域との連携」(P4)と述べ(このことの問題点は後に指摘します)ており、「教職員が子どもと向き合う時間を確保」(P10)とも述べているのですが、これを行うとすれば、教職員定数の抜本的な改善が不可欠です。ところが、審議経過報告は、この点については言及がありません。教職員は文部科学省自身が行った勤務実態調査においても、大変な長時間過密労働のもとにおかれており、すでに「過度の負担」が課されているのです。最終答申においては、「教職員定数改善について年次計画をたてて実行すること」を盛り込むことを強く求めたいと思います。
次に、問題を持つと考えられる点をふくめ、順次意見を述べます。
まず、養護教諭に深くかかわる「学校保健の充実を図るための方策」について述べます。
第1の問題点は、職務内容の明確化についてです。審議経過報告は、「学校保健の充実を図るための方策について」では、「養護教諭がつかさどるべき養護とは何か…明らかになるような法制度の整備」(P8)と述べ、栄養教諭にかかわっても「職務の明確化を図るための法制度の整備を検討」と述べています。
しかし、養護の中身は、それぞれの学校の実態や、時代の進展、子どもたちの状況などによって違うものです。たとえば保健室登校に対するケアが「養護をつかさどる」養護教諭の職務として、なされていますが、これは、学校教育法が制定されたときには、想定されていなかったものです。このように、つかさどる養護の中身は、子どもたちの実態によって規定されるものであり、これを法律によって細かく規定することは、かえって養護教諭の職務を狭めることになりかねません。保健指導の実践は、養護教諭自身の職務の自覚と自主研修を中心とする研修によって発展してきたものであり、現在の学校教育法の規定で十分であると考えます。
しかも(概要P69)では、「養護教諭の果たすべき役割を、学校保健法上、より明確に位置付ける」とされています。どのような位置付けが想定されているのか、現時点では不明確ですが、児童生徒などの健康診断にかかわって現行法では、「学校においては」とされているものを「養護教諭は」と置き換えることが想定されているのならば、養護教諭自身の努力によって発展させてきた職務内容の後退にもつながるものであり、大きな問題だと考えます。
また、「栄養教諭についても、近年おかれた新しい制度であり、今後どのようにその職務内容が発展していくのか、現時点ではかりきれないものです。したがって、これも現在の規定で十分であると考えます。
第2に研修の問題(P8③)です。養護教諭が職務をすすめていくうえで、研修は不可欠です。しかし、「国が研修内容のプログラム開発を行い、実践的な研修内容のモデルを示す」ことは、断じて行ってはなりません。それは、憲法23条をはじめとする諸条項から導き出される研修の自由に対する重大な侵害となるからです。
また、現行の初任者研修や経験者研修は、勤務校を離れての研修が多く設定されています。そのため保健室に養護教諭が不在となることや、場合によっては継続的な対応が必要な子どもへの対応ができないという状態にもなってしまいます。こうした事態を改善することが求められています。
第3に、P10⑦については、言及されている「保健室の施設設備の充実」を強く求めたいと思います。現状では、保健室が狭いため保健室で健康診断が実施できず、他の部屋でやらざるをえない実態や、保健室に外線電話がないために、救急処置の対応で医療機関や保護者と連絡を取らなければならない場合でも、けが人や病人を保健室においたまま、職員室から電話をかけなければならない実態、アトピー性皮膚炎の子どもなどのために必要な、皮膚の清潔保持に欠かせない温水シャワーが設置されていない実態など、多くの不十分な実態があり、早急に改善することが求められます。
第4に、スクールカウンセラー(P14(6))についてです。スクールカウンセラーは各都道府県によって配置実態が異なるとともに、常駐ではなく派遣型で配置されています。子どもたちの実態にもとづいて養護教諭と連携したとりくみをすすめていくためには、記述されているような配置時間の拡大だけでは不十分であり、常駐体制とすることが求められると考えます。
第5に、学校、家庭、地域社会の連携の推進(P17)については、連携すること自体は重要であると考えますが、それは、学校が子どもや地域の実態に即して自主的に行うべきものであり、「地域学校保健委員会」の設置などと特定の方法や名称まであれこれ述べるべきではないと考えます。また、現在の教職員配置を前提に連携をすすめようとすれば、さらに過大な負担を養護教諭をはじめ教職員に強いることになり、問題です。学校、家庭、地域との連携をすすめるためにも、教職員定数増は不可欠であり、言及されたいと思います。
次に「学校における食教育の推進を図るための方策」について述べます。
第1に、P21④に「JAS法を改正し、企業に原産国表示を徹底させるとともに、トレーサビリティーの実施などを求めることとあわせて」という文言を挿入すべきであると考えます。
第2に、P22②については、「学校給食の民間委託をやめ、自校・直営方式に戻すとともに、給食調理員の正規雇用化をすすめる」を挿入すべきです。後に詳しく述べるように、文部省(当時)が1985年に発した「合理化通知」がさまざまな困難を引き起こしています。
子どもの食教育のためにも、学校、地域、家庭が連携した地域に開かれた食教育を行うためにも、地域経済の振興という面からも、自校・直営方式がもっとも優れた方法であることは、各地ですすめられている地産地消のとりくみなどからも明らかです。
また、献立を教科学習と関連させ、有効に活用していくには、自校方式以外は無理があります。それは、各学校によって、授業の進み具合が違い、とりくみ内容も同じではないからです。
第3に、「『学校給食実施基準』をより明確に法体系に位置づけることを検討」(P24)については、次のように考えます。現在の学校給食法は、目的として①児童・生徒の心身の健康な発達のため、②国民の食生活の改善に寄与するため、③学校給食の普及充実を図るため、と明確にし、学習権主体である子どもの成長・発達の権利を、行政が条件整備の側面から保障するという組み立てになっています。これを踏まえたうえで、「学校給食実施基準」第5条に、「原則として自校・直営方式とする」旨を挿入し、学校給食法に位置づけることについては賛成するものです。しかし、「学校給食実施基準」第1条、2条、3条を法体系に位置づけるとすれば、給食内容を定めた細目を法に位置づけることになり、食と食教育の内容についての国家統制にもつながりかねません。したがって行ってはならず、現行どおりの「基準」にとどめるべきであると考えます。
第4に「食育・学校給食に関する学校内の体制の充実(1)学校の教育活動全体を通じた取組」の③(P25)については、冒頭に述べたように、学校教育への介入であり、反対します。
第5に、「栄養教諭の役割・職務の明確化を図るための法制度の整備を検討」(P26)については、これも冒頭に述べたように、現時点で栄養教諭の職務を法律によってしばることになり、反対です。同時に、学校教育法を改正して、栄養教諭の必置規定にあらためることを求めたいと考えます。
第6に、研修(P27⑥)については、養護教諭について述べたと同様に、これも国家統制の強化であり、反対です。
第7に、「食育推進委員会」(P27)および「地域食育推進委員会(仮称)」(P31)については、これも冒頭に述べた理由から削除すべきであると考えます。
この項の最後に、全体として法体系への位置づけや法制度の整備が随所に記載されていますが、これらの法が仮に「学校給食法」であるとすれば、本末転倒といわなければなりません。学校給食をめぐっては、1985年の文部省(当時)による「学校給食の合理化通知」を重大なきっかけとし、地方自治体予算の削減もあいまって「合理化」がすすんでいます。それは、学校給食を調理する熟練の調理員の確保どころか、定数削減にまでおよんでいます。これでは充実した給食を行うことは、困難にされるばかりです。「合理化通知」を撤回し、自校方式を守ること、調理員の定数改善を行うことこそ求められるものです。抜本的な見直しを求めます。
最後に「学校安全の充実を図るための方策」について述べます。
第1は、「子どもの安全を守るための学校の役割について」で学校に求められる役割として「各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間など学校の教育活動全体において行われる総合的な安全教育によって」(P34)と述べられていますが、これは、安全教育の肥大化といわなければなりません。子どもの安全は、いのちにかかわる問題であり、もっとも重要視しなければならないと考えます。しかし、学校における教育活動はたとえば、教科教育は教科固有の認識形成という役割を担っており、安全にかかわる部分があったとしても、それはあくまでも部分でしかありません。したがって、安全教育を学校教育活動全体に肥大化させるべきではないと考えます。
同時にそれは、教職員の責務を際限なく拡大することにつながり、結果として教職員に過大な負担を強いるものとなり、本来の教職員の職務を軽んずることになりかねないことも、あわせて指摘しておきたいと思います。
第2に、施設設備の安全点検(P34)は重要ですが、その前に、施設設備が安全であるかどうかが問われなければなりません。P37で「学校施設の耐震化を推進する」と言及されていることは、冒頭にも述べたように評価するものです。しかし、実際の耐震化の進行は必要性に見合ったものになっておらず、そのもとで「安全点検」が強調されても、むなしく響くだけです。とりわけ、耐震化や老朽校舎の建て替えには財政的裏づけが不可欠であり、国による財政的支援の抜本的強化が必要です。施設設備の安全確保は、財政的裏づけをともなった、具体的な条件整備こそが求められるものであると考えます。
第3に、前記2項と同様に、ここでも学校運営体制への踏み込みすぎがあることです。P38には「例えば、学校安全主事・主任等」を校務分掌の中で明らかにし…このような体制の整備を図ることも有効である」と述べていますが、子どもの安全確保のために、どのような学校運営体制がもっともふさわしいかは、子どもの実態、学校や地域の実態に即して、各学校が考えるものです。校務分掌まで言及することは、教育に対する介入というそしりをまぬかれず、削除すべきであると考えます。
第4に、ボランティアの配置などによる警備や校外・校内巡視(P42)があげられていますが、ボランティアはその名のとおり自発的な意思によるものであり、そもそも計画的な配置は望めないものです。また、その権限や責務にも限界があり、根本的な対策にはなりえないと考えます。
第5に、ここでも学校、家庭、地域社会の連携が述べられており、その中で「『地域学校安全委員会』(仮称)を開催する」と述べていますが、すでに別項で述べたとおり、その連携のあり方については、学校の自主性が尊重されるべきです。加えて、「学校保健の充実」にかかわっては、「地域学校保健委員会」の設置、「食育の推進」にかかわっては、「地域食育推進委員会」の設置、そして「地域学校安全委員会」の設置と述べていますが、これこそ膨大な負担を学校と教職員に押しつけることになるのは、明らかではないでしょうか。先に述べた点もあわせて、抜本的に見直すべきであると考えます。
以上のことにつきまして、真剣な検討を心からお願いし、意見とします。