『クレスコ』

現場から教育を問う教育誌

クレスコ

〈2024年10月号 9月20日発行〉

【特集】教職員の長時間労働と「中教審答申」を問う

  • 全教共済
オピニオン

【談話】『「経済財政改革の基本方針2007」の閣議決定にあたって』

2007年 6月20日 全日本教職員組合 書記長 東森 英男

 政府は、6月19日、「経済財政改革の基本方針2007」(以下「骨太の方針2007」)を閣議決定しました。「新しい日本の国づくり」として「成長力強化と財政健全化を車の両輪」とした一体的な改革をすすめていくとしていますが、具体的には「骨太の方針2006」の着実な実施を求める中身に貫かれ、貧困と格差拡大が深刻化している国民生活の状況をさらに悪化させるものといわざるをえません。

 「骨太の方針2007」は、第1に、「成長力強化」の内容を、「生産性の向上」をめざすものとし、そのためには「非効率」の点検や人材育成のための「大学改革」を求め、その上で、「グローバル化の恩恵を享受し得る経済システムを構築する以外に道はない」と決めつけ、「日本経済のオープン化を促進」することを目標にしています。まさに、新自由主義にもとづいた弱者切り捨ての多国籍企業の要求に沿った「成長力強化」です。
 
 第2に、行政・財政システムの革新を「戦後レジームから脱却するための取組」とし、「これからの時代にふさわしい公務員像へと転換を図ること」を求めています。再就職規制や「能力・実績主義の導入」、官民の人材交流が今国会に法案として上程されていますが、その中身は「天下り自由化法」であり、「物言わぬ公務員づくり」です。しかも、「国家公務員制度改革基本法案(仮称)」を「次期通常国会に向けて立案し、提出する」としていますが、中身はまったく不鮮明です。「パッケージとしての改革」として示された「民間を含めた公募制」「官民交流」などは、公務員に対して「全体の奉仕者」から「政府の奉仕者」になることを求めているといわざるをえません。国際的にも、まずもって見直すべき労働基本権問題については、「改革の方向」としたものの、他方で「実現できる改革から迅速に実現」とし、改革とはとてもいえないものです。
 
 第3に、「財政健全化」では、軍事費を聖域化し、米軍移転費に3兆円もの巨費を投じる一方で、社会保障切捨てや教職員の1万人純減などを明記した「骨太の方針2006」にしたがって歳出・歳入一体改革を「断行」することを求めています。「骨太の方針2006」以降の1年間に、さらにすすんだ国民生活悪化の実態は、生活保護をはじめとする社会保障費の充実を求めており、「骨太の方針2007」はこれに逆行するものです。また、文科省が実施した「教員勤務実態調査」の結果からも教育現場は、教職員の定数増こそを必要としています。それにもかかわらず、予算編成の原則を「新たに必要な歳出を行う際は、原則として他の経費の削減で対応する」とし、社会保障については、「持続可能な制度にする」ための制度改悪と、「負担増に対しては、安定財源を確保」するとして、消費税の増税を「平成19年度を目途に…実施させるべく、取り組む」としました。公務員人件費の目標を上回る削減、特に地方における民間給与の一層の反映や、教職員の定数増ではなく1万人純減を前提とした「定数の適正化」など、容認できるものではありません。
 
 また、「骨太の方針2007」は、教育を単独の項目に「格上げ」し、①授業時数の10%増、②自然体験・社会体験・奉仕活動の義務付けや「徳育」の「教科化」、③メリハリのある給与体系など、教育再生会議の第2次報告(以下「第2次報告」)を丸のみにしたものとなっています。
 そもそも経済財政諮問会議が、このように教育の内容に踏み込むことは、断じて許せません。しかも「第2次報告」は、子どもにいっそうの学習負担を押し付け、子どもも教師もいっそう競争的環境におしこみ、「効率化」の名のもとに教育条件整備に手を付けずにすまそうとするものです。
 
 そのことは、「第2次報告」のめざす初等・中等教育を「教育新時代」とし、それにふさわしい財政基盤のあり方として「3つの具体策」を示していますが、あくまでも予算増ではなく「教育予算の内容の充実」という表現で、「メリハリ」で対応しようとしていることにあらわれています。
 
 その第1は、「教育の機会均等」という言葉と裏腹に効率化を徹底しながら「メリハリ」をつけて「教育再生に真に必要な教育予算について財源を確保する」として、教育予算の増額に背を向けています。そして、「必要なところに重点的に支援」として、すべての子どもたちに等しく教育の機会を保障するために条件整備をするのではなく、「選択と集中」によって、国が必要と認めた施策には財源を付けるというものです。
つまり、改悪教育基本法や教育改悪3法にもとづく教育の具体化については予算をつけるというものであり、安倍内閣のすすめる「教育再生」を財政面から縛りをかけて押しつけようとするものです。断じて許すことはできません。
 
 第2は、「メリハリある教員給与体系」として2008年4月を目途に「教員給与特別措置法」を「改正」し、一律4%の支給となっている教職調整額に差別支給を導入しようとしていることです。
 
 第3に、「地方における教育費の確保」としていますが、その内実は「第2次報告」にあるように、地方交付税で措置されている財源が措置どおりに使われているかどうかを「公教育費マップ」として公表することによって、国の教育方針どおり使われているかどうかを監視しようとするものであり、国が国庫負担金などによって財源を保障するものではありません。
 そもそも「三位一体改革」によって、地方自治体の財政基盤を脆弱なものにしておきながら、地方交付税が措置どおりに使われているかどうかだけを基準に調査し、公表することをもって「教育費の確保」の施策とすることは、教育条件整備にかかわる国の責任を放棄し、地方自治体に押し付けるものといわざるを得ません。
 
 第4に、大学・大学院について、「基盤的経費と競争的資金の適切な組み合わせ」の名のもとに、「評価に基づくより効率的な資金配分」へシフトするとしていることです。
 このことは、「大学を競争の渦に巻き込み、大学の生き残り競争を強いるものであり、大学の健全な発展をきわめて困難にするもの」(「『教育再生会議』第2次報告について(全教教文局長談話)」)であり、容認できるものではありません。
 
 全教は、このような「骨太の方針2007」の閣議決定に対し、断固反対します。
 国民に一方的に痛みを押しつける歳出・歳入一体改革の「断行」ではなく、米軍再編をはじめとする軍事費の削減と不要不急の大型公共事業の見直し、地域経済の振興策をすすめることこそが打開の道です。「メリハリ」のある給与体系によって、教職員一人ひとりをバラバラにし、管理職からの評価ばかりを気にする教職員づくりではなく、のびのびと子どもに向き合い、子どもと保護者・教職員同士が相互に結びつきを強め、「参加と共同の学校づくり」をすすめていくことこそが求められています。文科省調査で明らかになった、恒常的になっている異常で違法な教職員の長時間過密労働も一刻も早く解決しなければなりません。
 
 そのため、全教は、当面する参議院選挙に全力をあげてとりくみます。同時に、概算要求期から2008年度予算編成期にむけてのたたかいを強化するとともに、憲法を守る国民的な共同のたたかいに全力をつくす決意を表明するものです。

                                               以上

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