『クレスコ』

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クレスコ

〈2024年12月号 11月20日発行〉

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【見解】『中教審WG「公立学校教員の給与の在り方について(経過報告)」を批判する』

2007年 1月30日 全日本教職員組合中央執行委員会

1.文部科学省は昨年7月、行政改革推進法に基づき人材確保法の廃止など公立学校教職員の給与の在り方の見直しを検討する「ワーキンググループ」(以下、WG)を中央教育審議会初等中等教育分科会に設置した。WGは、その検討の基礎資料とするため40年ぶりに「教員の勤務実態調査」を実施し、また、全教はじめ教職員団体からのヒアリングも行い、検討を重ねてきた。1月30日に「審議経過報告」(以下、「経過報告」)を公表し、中教審等における審議などを踏まえ、08年度からの見直しに向け「さらに審議を行う」としている。

2.「経過報告」は、「教員の勤務実態調査」を分析して、「恒常的時間外勤務の実態が明らかになっている」「休憩・休息時間が、…結果として十分にとれていない現状がある」「学校の管理運営や外部対応に関わる業務が増えてきており、結果として、教員に子どもたちの指導の時間の余裕がなくなってきている」と指摘している。
 このことは教職員が日々実感していることであるが、文科省が設けたWGが「教員が子どもたちの指導により専念できるような環境を整備していくことが必要である」と結論づけた意義は大きい。
 
3.「教員の勤務実態調査」は、全国の教員が一月当たり平均約80時間(約52時間の超過勤務と約28時間の持帰り仕事)という過労死ラインに相当する異常で違法な時間外勤務を行っていることを浮き彫りにした。
 これをもとに労基法に基づく割増の時間外手当を算出すると、持帰り時間を除いても年間約154万円(小学校117万円、中学校188万円)になる。全国で働く教職員は約92万人でサービス残業額は約1兆2千億円にもなり、一人あたりの平均必要経費(900万円)で割り返すと、約10万人の教職員増が必要となる。
 WGには、教員勤務実態調査に示された時間外勤務実態に見合う総人件費を確保し、教職員定数増と賃金水準維持を基本とした実効ある超勤是正策を打ち出すことが期待されている。しかしながらWGは、「骨太の方針06」に盛り込まれた、①教職員定数の1万人程度の純減、②人材確保法に基づく優遇措置を縮減(2.76%削減で財務省と文科省が合意)するとともにメリハリをつけた教員給与体系、を前提に検討を行っている。したがって「経過報告」は、教員の深刻な勤務実態は指摘するが、その解決方向は示さず、出口の見えない迷路に迷い込んだ内容となっている。
 
4.「経過報告」は、「安定的に教員に優秀な人材を確保していくためにも、…人材確保法を堅持することが必要」としている。財務省から人材確保法廃止の圧力が強められており、この点は評価する。
 しかしながら、前述の通り、「骨太の方針06」を前提としているため、「人材確保法の精神は維持しつつ、メリハリを付けた教員給与体系」をめざしているに過ぎない。平たく言えば、賃金原資総額の削減を容認した上で、賃金格差を設け、一部が相対的に賃金改善となっても多数は賃下げにしかならないものである。民間企業を見ても、「人件費削減隠れみの型」差別賃金は、破綻している。
 「経過報告」には、廃止・縮減を検討する諸手当として、義務教育等教員特別手当、特殊教育関係者に支給される給料の調整額、多学年学級担当手当、教育業務連絡指導手当(主任手当)、へき地手当などが羅列されており、「削減先にありき」で、理由は口実に過ぎない。
 なお、「特殊教育関係者調整額」の廃止を含めた見直しは、発想を逆転すべきである。学校教育法を改正し通常学校教員にLD・ADHD児を含む特別な指導を義務付けつつ、必要な定数配置も手当ても保障しないまま一方的に業務拡大しようとする姿勢をこそ見直すべきである。
 
5.焦点である教職調整額(4%)の扱いは、「引き続き審議を深めていく」ことになったが、「勤務負担の少ない教員と多い教員とで教職調整額の支給率にメリハリ」を付けることや休職中の者は支給対象外とすべきなどの意見が出されている。
 「恒常的な時間外勤務の実態」があることは、教職調整額制度が「制度疲労」している証左である。残業時間の個人差、バラツキを問題にするなら、労働基準法37条の原則に立ち戻り、時間外勤務時間数に応じた手当を支給する法改正を検討すべきである。
 
6.時間外勤務を解消するため打ち出されているのが、「勤務時間の弾力化」や「学校事務の見直し」などである。
 「長期休業期の勤務時間を短縮することで、1年間を通じて平均すれば1日あたり8時間労働となることが可能となるよう、1年間の変形労働時間制」まで検討されている。しかし、「長期休業期間においても、研修、教材・授業研究、部活動等の多様な業務」があり、通常期の膨大な時間外勤務を振り替えて消化することは不可能である。
 そもそも繁忙対応型の変形労働時間制は、繁忙期の負荷が非常に大きく肉体的にも精神的にも疲労が深くなり、生活のリズムも乱れ、際限のない長時間労働を助長するものである。現在でも、精神疾患で病気休職する教員の増加が深刻であり、導入を認めることはできない。学校から事務職員を引き上げる「共同実施の促進」では、かえって、教員への負担増となる。定数増なくして、多忙化の解消はありえない。
 
7.学校の組織運営体制の見直しとして、「新たな職の設置」「職務に応じてメリハリを付けた教員給与」をめざしている。そのため、「管理職を補佐して担当する公務をつかさどるなど一定の権限を持つ『主幹(仮称)』」「他の教諭等への教育上の指導助言や研修に当たる職務を担う『指導教諭(仮称)』」『副校長(仮称)』などの設置を求めている。しかし、組織の重層化は、「いじめ」など子どもの実態に即した対応や連携した取り組みを困難にするものであり、すでに導入された東京都では、『主幹』を希望する教員難がマスコミでも取り上げられている。
 新しい職を設けるかどうかは、「都道府県教育委員会等の判断」にまかせるとしながら、「義務教育費国庫負担金の算定との関連を検討することが必要」と述べ、国が押し付けるものとなっている。
 
8.教員評価の結果を、任用や給与上の措置などの処遇へ反映させることの促進が強調されているが、改悪教育基本法のもとでは、政府が決めた「教育振興基本計画」に忠実かどうかが行政によって評価されることになる。私たちは、学校教育の前進のため、「参加と共同の学校づくり」の中で、子どもや保護者が参加する評価は大切と考えるが、その評価結果を賃金・処遇にリンクさせることに反対である。
 
9.教員給与の優遇分2.76%の削減は、財務省が主張する来年度からではなく、文部科学省の努力もあり、08年度からの実施となった。その際に、伊吹文科相が「教育再生のために立派な教師を確保しないといけない」「ムチみたいなことばかりでは、いい教師は集まらない」(「朝日」12月19日)と述べたと報道されている。
 教育再生会議では、教育条件の改善は棚に上げて、教員免許の更新制導入など教職員の競争と管理強化、「ムチとムチ」ばかりが議論されている。06年度の公立学校教員の受験者数は、7年ぶりに減少し、競争倍率も、過去10年間で最低となっている。勤務実態に見合った教員給与の見直しでなければ、「教員という職業が魅力あるものとなり、教員に優秀な人材が確保」されない。教職員の生活を守り、誇りと働き甲斐が持てる教職員賃金の実現を政府・文部科学省に対し強く要請する。

                                              以上

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